第9話 生えるなら

「それは・・・本当なの?」


「本当です! これを見てください」


 彼は手に持っていたボロ紙を広げて見せる。


「これはお父さんが僕に託した、賢者ニューモの秘宝が記された地図です」


 地図には竜極峰をはじめとしたリガリ盆地があり、盆地から見た竜極峰の裏側には広大な森が描かれており、その真ん中にバツ印があった。マイナは早口で続ける。


「賢者ニューモは若いころスキーニーでひどい迫害を受け、人と関わらないために旅に出たそうです。長い旅の末、魔法を極めたニューモは長く豊かな髪を生やして帰ってきた。ニューモは『髪が欲しければこの場所を目指しなさい。必ず望む結果を得られるでしょう』と言ってまた旅立ったのでした・・・という話が僕のひい爺ちゃんが話していたそうなんです」


「ずいぶん昔の話だな。どうして本当だと思ったんだ?」


「僕のお爺ちゃんがフサフサだったんです! この地図はお爺ちゃんが描いたもので、ニューモの教えに従って髪を生やしたんです!」


「すごいな・・・」


 俺は正直おとぎ話と思っていた。魔法もあまり信用できていないし、死ぬほど試した育毛が簡単にできるわけがないと諦めていたのだ。目を輝かせて必死に話すマイナは、俺の顔を見ると弁を止め、口を閉じて下を向いてしまった。顔に出さないようにしていたのに、諦観の念を感じてしまったのだろうか。


 何か言おうと俺が口を開いた時、俯いたマイナがぽつりぽつりと話し始めた。


「僕、昔から髪がないせいで仕事をさせてくれなくて、お母さんや弟たちを安心させなきゃいけないのに・・・いつも思うんです。髪さえ生えていればこんなことにならなかったって、お父さんも、あんな目に遭わなかったのに」


 俺は、嗚咽を漏らすこの子の心情を想像することも出来ない。俺なんかよりもよっぽどつらい事があっただろう。大抵、自虐ネタは自身の本音を面白おかしく言っているだけだ。半ば諦めているが、コンプレックスであることに変わりはない。なぜそう思うのかと言えば、俺がそうであったからだ。


 小学生の頃、クラスメイトからはフランシスコ・ザビエルと呼ばれた。今となっては笑い話だが、当時はあだ名を風潮する輩に怒りが収まらず、追いかけまわして取っ組み合いの喧嘩をしていた。何もかもが嫌になって家から出ない日もあった。


 高校や大学でも好きな人に告白して頭が無理だと振られ、頭が薄いと無条件で舐められ、痴漢の冤罪も月に二回もあった。髪さえあれば、こんなことないんじゃないかといつも思うのだ。


 生えるなら、生えるなら生やしたい。


 そんな欲求が猛烈に生まれた。俺の中で何かが吹っ切れ、マイナに手を差し出して言った。


「生やそうぜ、髪。俺と君だけの宝探しに行こう」


「・・・はい!」


 彼は目の輝きを取り戻し、クシャっとした笑顔で手を握った。

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髪を求めて異世界へ~神によって間違えて死んだ髪の無い男~ ラムサレム @age_pan0141

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