第4話 戦況の共有
1557年2月
「それでは、本日はここまでとなります、徳鶴丸様。」
そう言って一礼されたのは傅役の一人である伊豆守(熊谷信直)さんである。今日は敬語の使い方や兵法を教わったが、ほんっとうに古文をサボらなくて良かった。お陰で言葉遣いは問題無くマスターすることができた。
「忝い、伊豆守(熊谷信直)。しかしこれが兵法かぁ。実戦で使うとなると中々難しいだろうなぁ。」
そう。未だ基礎部分とはいえ実戦経験も交えているのが百戦錬磨の彼らしいといえばそうなのだが、こう聞いてみると改めて「戦国武将って凄いんだな~」と思ってしまう。
「何、徳鶴丸様はまだまだお若い。これから経験なされば良いだけの話に御座います。」
「真にその通り。それに父が早くから戦のことを話すのは、よほど徳鶴丸様のご理解が早いのでしょう。次郎三郎(熊谷高直)兄上の時ですら無かったことです。」
そうフォローを入れてくれたのは馬廻り衆となっている次右衛門(
「次右衛門(香川勝雄)に小五郎(熊谷直清)か。ちょうど良い。与次郎はおるか?」
「ここに。」
そう言って与次郎こと
「周防の戦況は?」
「大殿が御自ら大軍を率いて
「良い状況では無いな。これ以上時間をかけると尼子や大友が介入しかねない。伊豆守(熊谷信直)は?」
「某も同意見で御座います。新宮党の件で尼子はともかく大友はその危険が多いにあるかと。決して尼子も油断は出来ませぬが。」
そうか。確かこの頃尼子晴久が尼子国久率いる新宮党を粛清したのだったな。それに史実で大友は弟の大内義長を見捨てて筑前・筑後の確保に務めた訳であったが、客観的に見れば大友が介入する可能性は否定出来ないからな。ケアしておいても損はなさそうだな。
「与次郎(世鬼政時)よ。尼子と大友に人は入れているのか?」
「勿論に御座います。今頃は父上が殿や大殿にご報告している頃かと。」
「ならば長次郎(世鬼政親)や弥太郎(世鬼政棟)に伝えよ。『決して無理はするな』と。後は父上や御祖父様の命をよく聞くようにな。」
「はっ。」
そう言って与次郎(世鬼政時)さんは姿を消した。
「ふぅ~、慣れんな~。」
そう。吉田郡山城での一件が父上から伊豆守(熊谷信直)さんと五郎左衛門尉(香川光景)さんに伝えられると、二人とも喜んで引き受けてもらえたのだが、問題はその後。二人とも私の被官となってしまったがために二人から"殿"は不要、もっと扱いを雑にしてもらわなければ困ると言われた為に今までの口調を変える必要が出てきたのだ。
「何か至らぬところでも?」
「ん?次郎(香川次郎)さ・・・、いや次郎(香川次郎)か。いや何、口調に慣れないだけよ。」
「はぁ・・・。」
そう戸惑う次郎(香川次郎)さん。しかし独り言が聞かれていたとはな。
〈後書き〉
更新が遅くなりました!申し訳ありません。今回もお読みくださりありがとうございます。ここからは作者のコメントを書いていきたいと思います。
1.古文サボらなくて良かった~!
高校時代の努力が報われた主人公w。そりゃあ平安時代と戦国時代の喋り方は多少違うところもあるとは思いますが、まだヨーロッパ方面から外国語は流入していないため、大差は無いだろうという設定です。
2.熊谷信直
横川表の戦いや吉田郡山城の戦い、第一次月山富田城の戦いや厳島の戦いなど多くの戦に従軍し活躍した歴戦の猛者。史実では
3.
香川光景の弟と言われている方。大蛇退治の伝説があることで有名な方です。
4.世鬼政時
毛利家の忍びとして有名な方。拙作では世鬼政親の次男という設定にしました。主人公の側に居るのは元就さんが護衛&監視の目的で付けたため。
5.大友の介入は否定できない
毛利目線だと大友家が博多掌握のために介入しているのか弟を救出するために介入しているのか分かりませんからね。
6.香川次郎
香川光景の次男。史実の香川春継です。お察しの通り"春"の字は吉川元春の偏諱であり、彼が認めて一目置くほどの猛将であったそうです。拙作では主人公の小姓として仕えているという設定です。
7.次郎さ・・・
オフモードになっているとついつい"さん"を付けたくなっちゃう主人公w。まだまだ前世の感覚が抜けきれていないようですw。
それではまた次回もよろしくお願い致します。
毛利家異聞日記 @yukitaro-Japan
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