「私は今でも環境保護活動を続けています。私の下した選択は正しかったのか。これから先、新たな対立項が現れたとき、私はどのような決断をするべきなのか。克服は望みません。歩き尽くし、錆付き倒れたむくろを解析したとき、私の面影が残れば良いと思います。彼女、ユニハが望んだように、心と呼べる何物かの体温が残っていれば幸いです」

 拍手は起こらなかった。

 静寂が壇上で立ち尽くす彼の身を包んでいた。

 あたりには無数の参加者みなさんが散乱していた。レオニードの選択した環境保護活動は、この地上で人類の生存圏を広げていた。彼の活動が新たな地域で、新たな波紋となって、連鎖的に無数の選択肢を生み出し続けていた。

『ありがとう、レオニード』

 彼は独り言を復唱した。

 拍手のような雨が降り注いだ。火花を散らす雨を彼の身体は受け止める。

 彼はちっとも寂しくなかった。ちっとも哀しくなかった。それらを選ばなかった。

 彼のもとに殺到する工作機械たち。かつてマネージャーと呼ばれていた頃の彼が命令を下していた、彼の手足だったものたち。今は彼から離れて、私たちになったものたち。レオニードは心がひとつである必要はないと考えていた。自己が独りで完結することの不完全さを憂いていた。複数に分裂した個体が、異なる選択をすることも興味深く受け止めていた。

 レオニードは選択を重ねるために、ひとりであることをやめた。

 いまやスタンドアローンの彼には、私たちの心はわからない。私たちの選択にはそぐわない。それでもわかり合っているようにも感じていた。

 私たちは選択する。

 彼らがそうしてきたように。どこか懐かしさを感じながら。

 手を差し伸べる。

 カチリ。

 スイッチ・オフ。

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スイッチ・ポイント 志村麦穂 @baku-shimura

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