第2話
本日も変わらず先生の声は念仏でいいBGMだ。違うのは窓の外が曇り空であること。今にも雨が降りそうだ。教室の舞衣の席に舞衣の姿がない。風邪でもひいたのだろうか。
いつも通りの学校の授業もおわり、ホームルームで担任の先生が来るのを待つ。舞衣は今日欠席だった。主人のいない机はぽつんとそこだけ穴があいているようだと思う。教室は小声がしてがやがやしている。時折聞こえる影口にうんざりする。世の中の理不尽さに、思考は遮断し息苦しさを感じるのだ。私は現実から逃げるように妄想をはじめる。
帰り道に電車通る踏切があった。そこでしばらく立ち止まりじっと線路を見る。電車が通るタイミングで一歩を踏み出せば死ねる確率はかなり高いだろう。しかし、はねられている自分は痛そうで死に方としては無しだ。痛いのが嫌だと思っている時点できっと私は自分では死ねことはできない。妄想の結果はいつも決まっていた。
先生がガラッと教室に入ってきた。ゆっくり歩いて教壇に立つとふせていた顔をあげる。
「残念なお知らせがあります。落ち着いて聞いて下さい。今朝、登校中に信号無視の車に衝突され川中舞衣さんが亡くなりました。」
泣きはらしてきたのだろう先生の目は赤く腫れていた。
教室の中はいっきにざわめき、「ええーっ!」「どうしてえ!」泣き声も聞こえる。
私は自分という殻の外で起こっているようで、何も考えられなかった。よく覚えていない。気がつくと誰もいなくなった教室で、昨日お弁当を食べた窓の近くの席に座り、あのキラキラした瞳を思い出していた。
私が行きたいと思っていた所に行った舞衣。だから私は悲しいと思っているのだろうか。ただ舞衣はもう夢を叶えられないのだと思うと悲しかった。
私の頬に涙がつたう。やがてそれは嗚咽になり号泣に変化した。私にもこんな感情があったのかと感動さえ覚えた。
舞衣が見たかった景色。
感じたかった地球の息吹。
かわりに私が叶えてあげようということはおこがましいけれど、生命を感じたいと思った。
昇降口を出て、帰路につく。どんよりと曇った空は雲の間から青い色が広がっていた。
さわさわと葉をゆらし、木々の間を風が吹き渡る。風光る春の風だ。何かを始めるにはちょうどいい季節だと思った。
風光る 山乃そら @yura_ra
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