読者の心に彩を齎す「日常」を描いた恋愛小説

飯を食って生きている人間を書くのって、簡単なようで難しいのです。
何かを食べるなんて、誰にでもできるし、今すぐにでもできることを、あえて小説の中で表現して何が面白いの?と思う人もいるかもしれませんが、その答えがこの作品の中にあるような気がします。

日常に彩を添える。これは現実で生きる人間にも、小説の中の登場人物にも、必要なことだと思います。この作品の場合、その彩がフルーツサンドだったというところが、とても優れていると感じましたし、なにより好感が持てました。

味覚も伝わりやすいし、なにより色が見えるのが、読者の理解度(作品への浸透具合)を深めるのにとても効果的だと思いました。食べ物って、色で美味しさが決まるとも言いますし、この作品は本来無色であるはずの小説に色味を与えて、より芳醇な恋愛小説へと仕上げているように感じました。

手法も技量も、申し分のない傑作です。

日常を頑張る人へのご褒美に、この作品を贈りたいと思えるような作品でした。