もう一人の名探偵

 奏美かなみの報告を聞いて、榛菜はすぐに晶に話したくなった。


 従兄弟を除けば、男の子に電話をするのは初めてである。すこしドキドキしながら晶との通話ボタンを押すと、「はい」と、思っていたよりもあっさりした返事が返ってきた。まぁ他所行きの晶が出てきても変な感じになりそうだし、自分でも何を期待していたのか分からなかったので、かえって良かったのかも知れない。


「どうして私が事務員さんと先生が夫婦だって気付いたのかって?」


「ああ」晶はまだ不思議そうにしている。


「晶くんが言ってたじゃない。事務員さんの個人的な知り合いかもって。それなら夫婦ってこともありそうでしょ?」


「それは、確かにそうなんだが」それでも腑に落ちない様子だった。


 推理で晶に勝つ、というのは珍しい。榛菜は少しだけ得意げに胸を張った。


「それに、『以前はこの時期に幽霊が出た』んでしょ? 詳しくは知らないけど、事務員さんも数年おきに転勤するって聞いたよ。そうしたら何故、城北中の『以前』を知ってるのってならない?」


「うん。僕はてっきりそこも含めて嘘だと思ってた。違ったんだな」


「自宅でも一緒にいるから、『感染症が流行るは、コンクールが各学校で開催される、先生がのように夜中に練習していた』のを知ってたんじゃないかなって」


 晶に出せなかった結論を、榛菜はゆっくりと言葉にする。


「きっと、一生懸命で、優しい、いい先生なんだと思う」


「なるほど」晶は小さく笑った。

「白崎さんの言う通りだと思う。やっぱり僕にはデリカシーがないようだ」


「それまだ根に持ってるの? ごめんって!」


 二人はこのあとも他愛のない話をした。


 冬季講習のギチギチのスケジュールや、教科書を詰め込んだ鞄の重たさや、教室のエアコンの効きなど。山も落ちも意味もないが、晶相手にどんどん話したいことが出てくる。


 そうして、合唱コンクールも、この初めての電話も、きっと良い思い出になるんだろうな、と榛菜は思った。


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だからピアノが 井戸端じぇった @jetta

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