勇者パーティ(総勢27万人強)による魔王撃破の記録
海鳥 島猫
魔王城にのりこめー!
「魔王様……! 勇者一行が東の砦を突破したようです! このままでは間もなく勇者がこの城にまで……!」
魔王城、大広間。
頭頂部から黄金色の獣耳を生やした、重厚な衣装に身を包む眼鏡の女性――"魔王の右腕"こと魔王軍参謀・ミステルがそう述べた。
しかし冷や汗をかく彼女に対し、報告を受けた彼女の主は悠然と玉座で足を組む。
一見すると色白で小柄な、銀髪の少女に見える。しかし側頭部には鋭利に角ばった黒い角を生やし、背中には体躯に見合わないほどに大きな翼を広げている。
そう、彼女こそがこの城の主であり、魔物を統べる長――魔王である。
「四天王は全て討たれた、というわけね――いいわ、私が直々に勇者をもてなしてあげるとしましょう」
魔王が右手に添えた大槍が妖しく輝く。まるで血を塗り固めて作ったかのような赤黒く禍々しいそれは、並大抵の者なら見ただけで青ざめてしまいそうな呪力を備えている。
しばしの静寂ののち、ガタン、と正面の扉が軋む音が大広間じゅうに響く。
「――来たわね」
そう言って魔王は玉座から身を乗り出し、己の莫大な魔力を槍の末端にまで行き渡らせる。
直後、扉は勢いよく開け放たれ、翠色に輝く剣を抜いた青年を中心に数人の人間がその姿を見せた。
勇者。
魔法使い。
僧侶。
戦士。
魔王を討たんとする者たちが、堂々と大広間へと入場する。
「よくここまでたどり着いたわね、勇者」
4人が大広間へ入ったところで、新しい人影が扉の前に現れ、勇者一行に続いて大広間へと足を踏み入れる。
狩人、アーチャー、料理人、海賊、行商人、馬、首輪の繋がれたオーク……その数、数十。
「あらあら、ずいぶんと仲間を増やしたのね? でも数を集めたところで……」
村人、幽霊、村人、自走する植物、村人、盗賊、サキュバス、巨人、犬、サムライ、ニンジャ、ゲイシャ、村上さん、メイド、大妖精、司書、大道芸人、吟遊詩人、村人……。
「待って。多い。多くない?」
王家のみなさん(68名)、序盤の村にいた住人のみなさん(131名)、鬼ヶ島の鬼(408名)……大広間はみるみるうちにぎゅうぎゅう詰めとなり、ついに壁が圧壊した。
「ああ! 壁が! 修繕費高いのに!」
「追い詰めたぞ魔王! 俺は勇者アルベール、お前を倒す者だ!」
「うんアンタは知ってる! アンタの後ろよ! こいつら何!?」
「私は勇者パーティいちの大魔法使い・ベルナデッタ」
「わたくしは僧侶のフルーテです」
「コロッセオ最強の戦士アイラとはアタシのことだ!」
「商人のマルセオでございます」
「女怪盗メィロウ参上!」
「まさか全員やるつもりじゃないでしょうね?」
魔王の
「――アリエルです。ふ、普段はベント村で機織の仕事してます」
「……」
「
「……」
「カブトムシです」
「……今何人目? もう攻撃はじめていい?」
「オデ、オーク。マオウヨリ、ユウシャ、キュウリョウイイ」
「もういい攻撃する! 穿て――邪槍”ヴロンディ”ッ!」
魔王の槍から生まれた爆炎は超過密状態の勇者軍団の中心へと放たれた。しかし寸前で集団のどこかから張られたバリアが炎を跳ね返す。
「うわ普通に強い! ムカつく!」
「名乗りを上げている最中に攻撃するなんて! 魔王のごとき非道!」
「魔王ですけど!?」
「ええっ、魔王?」「てっきり今日はわたくしたち”チーム勇者の嫁”全員で合同結婚式をするものだと……」「王を倒して革命を起こせると聞いていたが魔王だったとは……」
「人多すぎて情報伝達失敗してるじゃない! 全部で何人いるわけ!?」
「全部で、えっと……」「27万人~!」「27万人だっ! これが俺の仲間たちだ!」
「勇者が把握してなくてどうするのよ」
「そしてわしが勇者パーティ300人目キリ番の戦士、武闘大会毎年初戦敗退のロウ・リーである」
「ボクが301人目の魔装天使ミラクル☆リリアだゆん」
「え自己紹介再開するの?」
「302人目。セセリア。サキュバス。以上」
「有無を言わさない。我が強いわね勇者パーティ」
「あっ、303人目、私ですね……。あの、村上美波っていいます……下校中トラックにはねられて、気づいたらこの世界に……」
「なんか世界観が違う人が来たわね」
「次は私ね♪ 私は色々な名前で呼ばれているけれど、ここでは”カルネテルの黒き使者”とでも名乗ってみようかしら♪」
「もっと世界観が違うヤツが来たわね」
勇者パーティの自己紹介は1時間続いた。まだ全体の1%も終わっていなかった。
「ねえ勇者。これ私を疲弊させて倒す作戦なんじゃないの? そうだと言ってくれたほうがまだ助かるんだけど」
「また名乗り中に不意打ちをする気か? やはり魔王というだけあって卑怯な手口を好むようだな」
「全員分聞いてたらキリがないわよ! もういいからいちばん強い4人くらい代表で選びなさいよ!」
「いいや、27万人全員でおまえと戦う」
「卑怯な手口って言葉そっくりそのままアナタに返してあげようかしら?」
「観念しろ魔王。この数にお前は勝てない」
「ぐぬぬ……ホントに、ホントに悔しいけど私とミステルの2人じゃ流石に厳しい数なのよね……」
そう言って、魔王は傍らにいるはずの己が右腕に声をかけた。
ミステルはそこにいなかった。
「……ミステル?」
次に彼女の声が聞こえたのは。
”魔王の右腕”が立っていたのは。
「すみません、魔王様」
「…………………………………………噓でしょ」
「実は私が――勇者パーティ5人目、”幻獣魔人ミステル”です」
「嘘で……って番号若ぁ!? いつから加入してたのよ!?」
「勇者様が国王から魔王様を退治する命を受けて、城を出たあたりからです……」
「まだ冒険も始めてないじゃない!? 早すぎるわよ! なんで”魔王の右腕”がそんな序章も序章に寝返ってるのよ! じゃあ今までどういう気持ちで魔王軍にいたわけ!? 四天王こいつに討たれてんのよ!? あなたの親友も四天王のひとりだったでしょ!?」
「あの……私生きてます……勇者パーティ250348人目、魔王軍四天王がひとり”暴食のフレイン”です……」
「四天王ォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」
魔王は脳を破壊された。
「勇者よ、魔王が瀕死だ。今がトドメのチャンスだぞ」
僧侶(注釈:2人目の仲間である僧侶フルーテではなく35705人目の仲間、僧侶ミラージュのこと)に助言され、勇者は魔王の前に歩み出る。
魔王は膝をついたまま槍を捨て、力なく首を出した。
「これで私も終わりね」
「魔王……」
「慈悲は無用。ひと思いに殺してちょうだい」
「……」
勇者もまた、己の剣を捨てた。
「魔王」
「勇者……?」
「魔王……
…………仲間になれッッッッ!!!!」
「はぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~????」
「勇者! ワタシのマスター投網を使って! これはどんなマモモンも必ず捕まえることができるモンスター投網よ!」
「ありがとうマモモントレーナーのミズキ!」
「なんか唐突に知らない職業とアイテム出てきたんだけど!?」
「よし、魔王! お前が俺の、270001人目の仲間だーっ!」
「どの口が言って――ああ、コイツ私のミステルを超序盤で仲間にしてるヤツだったわ……」
「勇者さまぁ~! 270024人目ですぅ~!」
「270024人目の仲間だーっ!」
「ちゃんと把握しときなさいよ!!!!」
かくして、魔王との戦いは終わった。
勇者パーティ(総勢27万人強)による魔王撃破の記録 海鳥 島猫 @UmidoriShimaneko
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