女子バージョン



「アイト、まじでかっこいい。推せる!」


 あたしは、会いに行けるアイドルグループの一人に夢中になった、高校一年だ。慣れないバイトも頑張ってライブチケットを取り、グッズも買い集め、地方遠征まで行く勢い。


 毎日インス〇をチェックして、アイトの好きなカフェは聖地だと思ってるし、ファッションブランドにも詳しくなった。


 会いに行けるから、メイクもダイエットも頑張ったし、バイトも許可して欲しいから勉強も頑張った。


 明日またライブ……何着て行こうかな……




 ◇


 

 

「ヒナちゃんだ。いつも来てくれてありがとう!」



 ――は?

 ――は??

 ――はーーーーー???



 推しが名前覚えてくれてただと?

 なに、あたし死ぬの? 明日死ぬ? マジで死ぬのかな?

 もし転生するなら、アイト王子様であたし姫ね! ざまぁはなしでおなしゃす!!



「あれ。おーい? ヒナちゃーん?」

「うひゃあ!」

「あっは、面白い。いつも可愛い応援に元気もらってるよ、ありがと」

「はひゃーい」



 なにこれ泣く。アイト、良い匂い。マジで泣いた。

 明日からもっと頑張ろ……




 ◇




 教室で昨日のライブを思い出してニヤけていたら、前の席のタクが眉間にシワを寄せた。

 

「ヒナ、その顔やべぇな。完全に変態」

「おいぃこらぁ」

「くっく」


 人の顔がやべぇとは失礼なやつだ。


「ま、可愛いけどさ」

「あーはいはい。アイトに次会えるのはいつだぁ……切ねぇ……」

「流すなよ」

「アイト以外割とどうでも良い」

「あっそ」


 だってタクはゴツイのである。

 眉毛も太いし色も黒い。汗臭い熱血野球部員に用はないのである。




 ◇




「マスター。王子様キャラが好きな子を量産したら、まともな恋愛脳が育たない、て気づかなかったんですか?」

「言うねぇアイトぉー」

「僕、アンドロイドだから汗もかかないですけどね。あの子たち、本当にヒゲなし匂いなしの男子を求めてますよ」

「いやーさすがにほら、女の子って現実的だからそこまではいかんかなーって思ってた時期が俺にもあったよねー」

「虚像を追いかけてもね」

「しんらつぅー」

「じゃ、僕引退ってことで」

「えぇ? まだいけるだろ?」

「いえ。もう表情筋、死にました」

「おおふ……じゃ、リセットメンテ出しとくな」

「お願いします」


 あっさりした挨拶の後で、研究室の自動ドアを出ていくアイトは、スッキリしたような背中だった。

 

「俺自身、変態のアンドロイド製作者ってだけだし、恋愛脳って言われてもねー。AIに聞いてから知能プログラム作ったんだけどなぁ。成果ゼロかぁ。この研究もオワタ」



 ――以降、二度と『少子化対策プログラム』が行われることはなくなった。




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 ※男子は受け身がち、女子は攻めがち、という偏見で書きました。他になにも意図ありません。



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