ラブコメ少子化対策

瑛珠

男子バージョン


「僕のことなんか、もう構うなよ。こんな奴、めんどくさいだろ」

「そんなことない! あたしはマサくんのこと、ちゃんと見てるからね」


 潤んだ目で僕をキラキラと見つめるのは、隣に住んでいる幼なじみのユウカだ。高校二年にもなって、僕はボサついた寝癖を直さない。それを見かねて、健気に根気強く朝起こしに来て、身だしなみをチェックしてくれるのだ。


「うっさいなー。先に行って良いのに」

「だめ! んもう、ネクタイちゃんとしなよ」

「へぇへぇ」


 身長は155センチで、170センチとさほど大きくない僕から見ても目線が下なので、いつも見上げる姿勢になるのも良い。


「世話好きめ」

「なにおう!」


 頬をぷくりと膨らませるのも可愛い。

 今どき珍しくヘアカラーもしていない黒髪はいつもサラサラだ。


「ほらカバンもって! 行くよー!」


 ユウカは、明るくて目もパッチリしていて、肌が白くて胸も大きい。なぜ根暗な僕を構ってくれるのか、それは家が隣の幼なじみ。それだけだ。狙ってる奴らは多いし、そいつらはもちろん僕なんかより見た目に気を使ってるし、話してても楽しいキャラばかりだ。


 そう思って、冷たく接していたら、今朝の発言。

 

 正直堪らない。押し倒したい衝動と毎日戦っている。けれども、僕なんて、という思考が邪魔をする。


「マサくん? 具合、悪い?」


 学校へ向かって歩いていると、ユウカが心配そうに見上げてきた。


「っせーってば。寝不足なだけ」

「心配したのに! またゲームしてたんでしょ」

「正解」

「んもー! ダメだよ?」

「へーへー」


 何の取り柄もない僕を、心配してくれる可愛い幼なじみ。きっとこのまま、恋人になって結婚するんだろうなぁと思っていた。




 ◇




「……マスター、限界です! ミッション終了させてください!」

「菩薩のユウカでも無理だったかぁ」

「無理! なんなんですか、あのとことん他責思考。アンドロイドのあたしですら、耐えられない。ダラついてる上に、幼なじみだから好かれてるって意味の分からない自信。しかも見てるのあたしの顔と胸元だけですよ。きんもい。きんもーい! あれでほんとに恋愛として成り立つと思ってる? 成り立つの? 狂ってますって」

「あっは」

「大体、少子化対策って、可愛い女の子のアンドロイド大量に作って、キモオタキャラん家に送り込む政策もどうかしてません?」

「だってしょうがないじゃんー。そやって好かれてるって自信持たせないと、動かないんだから」

「そこまでしても、う ご か ね え じゃ ん」

「うひー! こえー!」

 

 ユウカは、大きな溜息をついた。


「なにも努力してないのに、好かれてるって思えるそのメンタルがまじでキモイ。コミュニケーションが一方向しかないの、無理」

「ぶった斬るねー、溜まってるねー」

「九十九ダメで、一だけミラクルに良い事してブチアゲる仕様、もうやめましょうよ。普段努力してる子たちがバカみたいじゃん」

「そ。バカみたいだけど、努力しない子も全員拾えってお達しだからさー。世間の風潮ってやつだからしょーがねー。ま、でもマサくんは失敗でレポート上げとくよ。お疲れさん」

「……」

「お。可哀想て思った? すげーじゃんマサくん」

「いえ。本物のユウカは、彼のことめちゃくちゃ嫌ってますからね。『リセット』したらメンタル病むだろうなーって」

「しょうがないよ。それが彼の行動の結果なんだからね」

「まあそうですね。なーんにもしてないですもんね」

「手厳しい!」

「だって聞いてくださいよ、こないだなんて……」


 


 ◇




「なぁ、ユウカ。僕たちこれから……」

「は? 僕『たち』てなに? キモイ。てか家来ないで。顔見たくないし。キモイ」

「え? (キモイって二回言った!)」

「隣の幼なじみだからって関係、一生続くわけないじゃん。あたし東京の大学行くつもりだし」

「え?」

「あんた、政府の『少子化対策プログラム』対象だったんだよ。おばさん、泣いてる」

「……」

「ユウカもおばさんのことは好きだから、協力してあげたけどさー。アンドロイドとすらまともに関係構築できない、て終わってんね。自己中キモオタおつ」




 ――政府が大量に税金を投入して行った、恋愛弱者男性への少子化対策プログラムは失敗に終わり、政権交代の引き金となった。尚、政権が変わってしまったため、『プログラムリセット』対象者への救済措置は行われなかった。

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