「私」から「私」へ、ループのバトンは受け渡される

幸せな未来に辿り着くまで、何度でも時を巻き戻すループ物語——でも、ハッピーエンドよりも先に主人公の心が折れてしまったら?

『妖精姫物語』は、そうなってしまった物語だ。

親友の死を覆すために、主人公「ローズィア」は同じ2年を何度も繰り返す。
けれど、彼女はローズィアであってローズィアではない。精神は現代日本の会社員、八瀬咲良のものなのだ。


……とここまでは王道異世界転生ループもののようで、でも面白いのはここから。
「ローズィア」は一人じゃない。
咲良の前にもう何人もが、ローズィアとして時を繰り返しているのです。

じゃあ、彼女たちは今どうしているのかって?
答えは簡単で……皆、"退場"してしまいました。
覆らない未来に心を折られて、次のローズィアにバトンを渡して。
本来のローズィアもきっともういません。

咲良は、愛読する『妖精姫物語』の作者であり友人であり、そして先代の「ローズィア」だった真砂から役目を託されてこの世界に来たのでした。
彼女が持つのは、物語として書かれた真砂の15回分のループの内容と、伝え聞いた情報だけ。
ローズィアとしての記憶があるわけではなく、そもそも何故親友が死んでしまうのかも未だに判明していません。

それでも、
友人から託された想いに応えるため。
大好きなキャラたちを悲しい結末から救うため。
ローズィアは、咲良は、未来を諦めない。
だから、狙うは最短ルート! 手段なんか選んでいられるか!
これは、そんなお話です。


……ところで、私は登場人物である「ユール」の愛の重さが好きです。
ローズィアの幼馴染であり隣国の王子でもある彼は、最短ルートを狙うあまりローズィアのキャラがブレまくろうが、契約婚約をはじめとした無茶振りを散々投げられようが、呆れながらもずっと咲良を助けてくれます。たまにこそっと嫉妬してるのも……愛だね!
その表現が激しいものではなくとも、彼の愛情深さはよく分かって——だから、彼を救おうとする咲良を応援したくなります。どうか、彼らが運命に打ち勝てますように!