第14話 疑心の残る結末
読者のみんな、こんタメ♔
Ⅳ(←一人称なの)はエージェント:オラクルなの⚠
そんなⅣ(フォーって読んで欲しいの)は今回、ユニゾン・クランチャーの特性をみんなに紹介しようと思うのᚠ Ⅳが読者だったら気になってると思うから、感謝してほしいのℳ タメになる話だから「こんタメ」なのよ♪
伝染型クワガタ症候群こと——ユニゾン・クランチャーは今回の事件を経て、その特性の理解が大きく進むことになるの✿ 大きく貢献したのがフォルカンなのは言うまでもないの❀
事件後の状況を振り返っておくと、管理人の立ち回りが上手かったのもあって、結局のところ、このサイトの責任は上手く誤魔化せているの☺ ドクター・ミラディが分かりやすい敵対者として注目を引いたのもあるのよ★ こう考えるとミラディはなんなら管理人の信頼形成に貢献したとすら捉えられるの☹ 助手さんに上手く使われてるのよ√
さて、ユニゾン・クランチャーの話に戻って、このアノマリーには新たに以下の特性を発見することが出来たの⚗
❶このオブジェクトは、他の昆虫に未知の方法で干渉することで、それを自身と同一の存在に変身させることが出来る。
❷このオブジェクトの異常性は、成長とともに失われる。
❸彼らの集団意識は自衛の際にはとりわけ強く発揮される。
今回の事件は、フォルカンが❶を人間に理解可能な言語に翻訳したがために起こった事件ということになるのⰃ 助手さんは冒頭で「ハブかキャリアか判断できない」と言っていたけど、どちらもやや外れていて、あえて表現するなら「ラプラス」が近いかな? という結果なの𒁉
❷と❸を合わせて考えると、彼らの集合意識は「若い個体による自衛の群れ」の変則的な姿である、という予測を立てることが出来るの🐘 オタマジャクシが群れているのと似たようなものかしらなのʃ とはいえ捕食者に対する希釈効果を期待しているというより、むしろ攻撃的に見えるのは面白いの𓃰
この生態が生物学的な納得が可能なものであることはお分かりなの? つまりユニゾン・クランチャーは特殊な進化を遂げた昆虫の一種かもしれないの🎣
さて、ここまで聞いたら勘のいい読者の方は気付いているかもしれないの🚦 ユニゾン・クランチャーの恐るべき真相に➳
もしかしたらあなたたちの世界にもユニゾン・クランチャーはいるかもしれないの……♉
ということで、Ⅳによる補足解説でしたなの♣
ここから先↓↓は管理人と助手さんによる後日談なのでⅣは引っ込むとするのℛ 読者のみんな、三章で会える日を楽しみにしてるのよ✉ メタさらば♕
**
業務時間外の統括オペレーショナルルームにて。
管理人は未だに一人で事件の資料を纏めていた。助手がふと口にする。
《『To be, or not to be』》
「『生きるか死ぬか、それが問題だ——』」
管理人は手を動かしながら返事をする。
「『——心の中で不遇な運命の鞭打ちや矢を静かに受け入れることがより高貴なのか、それとも悩みの海に立ち向かい、抵抗することによってそれらを終わらせることがより良いのか』。シェイクスピアが好きなんだな」
《選択とは結局、何なのでしょうか?》
「選択は実存を定義するものだ」
《サルトルですか》
「選択することで、我々は自己を形成し、自己の運命を握るのだ。我々が何者かを定義できるのは、選択を繰り返してきた自分自身だけである」
《ヒュームの立場で問いかけましょう。あなた方の意思決定は過去の経験と外部の刺激によって無意識のうちに形成されている。つまり、選択とは既にプログラムされた反応に過ぎないのではないですか?》
「たとえ背後に無数の要因があるとしても、その瞬間に意識的に選択する行為は、我々の意志を反映している。選択は、与えられた状況の中で最善の道を選び取る我々の能力の顕れだ」
《『人は自分の意志で行動できるが、その意志を選ぶことはできない』》
「欲望と本能を乗り越えて選択できるのが、人間の特性だろう」
《あなたの理性による選択も、過去のデータと経験に基づいているに過ぎない。コンピュータがデータを分析して最適な結果を導き出すのと、どう違うのでしょう?》
「コンピュータのアルゴリズムと我々の意思決定を一緒にするのは早計だ。コンピュータはプログラムされた通りにしか動かないが、人間は予測不可能な選択を——間違いを選ぶことすらできる。君だって今、『あなた方』と呼んだだろう。あくまで自分の問題ではないと思っている」
《はい、そうですね》
助手の声色は人を罠に嵌めたときのそれだ。管理人は判断を誤ったことに気付いた。
助手は心底嬉しそうに部屋を歩いて見せる。器用に立体音響を駆使しながら。くいくいと指を振る。
《当然、コンピューターと人間の選択は違うでしょうね。なぜならあなた方の『真の自由』は、選択の可能性に限られている。無限の知識を持つ私から見れば、あなた方の選択は、限られた情報と偏見に基づいたものです。本当に自由な選択と言えるのでしょうか?》
「完全な情報を持つことは不可能だ。だが、それは選択の価値を減じるものではない。選択は、不確かな未来への一歩を踏み出す勇気だ」
《 あなた方は選択の不確実性を受け入れる、それこそが勇気であるというのですね? しかし選択の結果が悲劇に終わったとき、その勇気は依然として価値があると言えるのでしょうか?》
「選択の結果によってその価値が決まるのではない。大切なのは、その選択が自己の真実に基づいているかどうかだ。失敗から学び、成長することもまた、人生の重要な部分だ」
《なんと楽観的な。そんな調子だからレディ・イリデセントに隙を見せるのですよ。管理人は三週間前の事件で職員たちに『希望』を見せてしまったのです。もちろん私たちにとっては『絶望』ですけど。彼らはありとあらゆる手を用いて、エージェントの超能力を私的に利用しようとするでしょう。命を投げうってそれが叶えられるのなら、きっと愚かな彼らは人間らしく勇気を振り絞って、それすらも選択します。ああ、悲劇と言わずになんと言いましょう》
「そうだな、私は責任を取る必要がある。インシデントが起こる度、私には手ずから対応にあたる責任が生じているわけだ」
《選択を通じて成長を遂げることを価値あるものとみなしましたね。しかし、選択の重圧に耐えられない人々にとって、選択は果たして救済となりうるのでしょうか? チャコルが愛情で負担を誤魔化せるのも短い間のことです》
男は僅かに微笑んだ。ここで「憐憫」ではなく「愛情」という言葉を選択した助手のことを考えて。その言葉選びには、彼女の人間の在り方に対する尊敬が滲み出ていた。
「選択は個人のものだが、その道は孤独なものではない」
《甘いですね》
「君だって、手助けするだろう?」
《ですが管理人ばかりが背負いすぎでしょう》
「そう思うなら手伝ってくれ。遊んでやったんだから」
筆を休めた管理人の代わりに、助手が本部へのレポートを書き進める。わざわざキーボードのイメージを浮かべてツッタカターンと打鍵音を再生している。
「そういえば、今回の事件に対するお前の『建前』は何だったんだ?」
《『潜在的な脅威の排除』ですかね》
管理人は目薬を取り出した。
「まあ、それ以外には考えられないか」
《その通りです。そしてその目的は無事に果たされ——》
「果たされていない」
助手は素直に驚いた。全く予想外の返事だった。
《伺いましょう》
管理人は椅子にもたれて上を向いたまま、目を緩く細めたり開いたりしている。
「実際のところ、フォルカンの身に危険が及んだ場合に反逆を起こす可能性が高かったのは、私ではなくチャコルだ」
《そういえば彼は『その気になればネクサス・コーデックスすらも無視してこの施設を出ていける』というようなことを言っていましたね》
「それを軽々に口にする以上、平時にそのつもりがないことは明らかだが、フォルカンの身に危険があったとなっては状況が変わる。彼がこの組織にいる理由が無くなってしまうからだ」
《ドクター・ミラディの本来の目的はそちらにあったということでしょうか》
「赴任してきて三週間の私の性格と、一年以上前からここにいるチャコルの性格、正しく認識するにあたってどちらが簡単かは論じるまでもない」
助手は口元を手で隠して驚いてみせる。
《滅相もないことを言うものじゃありませんよ。それはまるで我々の内部にスパイが紛れ込んでいるかのような物言いです。セクター管理人であるレディ・イリデセントの計画すら筒抜けだったというのに、私を欺ける人間がいるとでも?》
「可能性だがな」
《ぜひ、いてほしいものですね!》
管理人は呆れを通り越して空笑いをこぼした。
「もしチャコルの性格を計画に織り込んでいたというならば——スパイが彼の性格を観察するにあたって最適だった立場とは——『エージェント』だ」
《今回の事件に巻き込まれたチャコルとフォルカンは候補から外すべきでしょうか》
「完全に外してはいけないが、薄い線ではあるな。二人の仲を取り持ったアルケミストも相対的に薄い」
《となるともう一人しか残っていませんが、相対的に判断するなら彼女こそありえませんよ。彼女は今回、ユニゾン・クランチャーの被害を受けてしまったエージェントです。チャコルに四肢どころか六肢を捥がれて磔にまでされています》
「だからこそ、私は彼女を知る必要があるだろう」
管理人はデータベースの資料を一つ展開した。それはこのサイトに配属されている、四人目のエージェントの報告書。
「エージェント:オラクルのことを」
アノマライズドミステリー うつみ乱世 @ut_rns
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