二つの世界を行き来する力。子供に与えられた贈り物の時間

厳しく、やさしく、勇気ある、豊穣な物語でした。
視力を失った少年トビーが、闇の中に光を見出し、立ち上がり、やがてその光で誰かを照らそうとするほどに成長していく過程。確かで表現豊かな筆致に安心して身を任せていられます。
トビーが現実世界と向き合う支えとなり、助言を与えるジャン。そして彼に導かれてトビーが足を踏み入れていく、幻想的で神秘的なもうひとつの世界。
2つの世界に身を置くことで、現実世界に居場所を失ったトビーは現実の世界で生きる力を少しずつ得ていく……。

綾のように織り上げられていく二つの世界と人々の姿には、生命の力強さを、自分の、他人の生きる力を信じる筆者の視点が感じられ、深く心揺さぶられました。
摩訶不思議で得体の知れぬもうひとつの世界を、トビーはごく自然に受け入れていく。
そこに、幻想と現実の境が曖昧な子供だけが持つ、生命の強靭さとしなやかさを感じます。
大人だったら疑い、忌避し、嘲笑うもの。
子供の頃には傍にあったのに、忘れてしまった世界。
現実の世界へと背を押してくれたその世界は、実は目を開けば常にそこにあって、手を伸ばせばあたたかく応えてくれる。きっと道は開かれている。そう希望を抱かせてくれる物語でした。

視力を失った少年の内面世界を描き出す見事な表現力、アメリカ史への深い造詣に裏打ちされた世界観、素晴らしかったです。

カクヨムコン9特別賞受賞、まことにおめでとうございます!!
さらなる改稿を経てどんな物語として一冊の本となるのか、今から心待ちにしております!!

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