第6話 進路
高校の進路面談室には、陽が入る窓際に、木製の机と椅子が置かれている。担任教師が目の前の資料を一瞥した後、大和を真剣に見つめる。
「進路について、何も考えてないって本当か?」担任は、信じられないという顔で尋ねた。
「はい。まだ具体的には……」と、大和。
「ユーチューバーとか、インフルエンサーを目指してるんじゃないのか? 最近の君の行動を見ていると、そう思ってたんだが……」
大和は少し驚く。迷惑をかけてはいたが、教師が自分の行動を、そこまで気にかけているとは思わなかった。
担任は、にっこりと笑った。「教え子が有名になるのは、正直、嬉しいもんだよ」
大和は、頭を下げる。「でも、僕が注目されたのは、迷惑動画が炎上したからだけで……特に才能があるわけじゃないですから」
「そうか……」担任は少し考え込み、大和の成長を感じた様子でうなずいた。
放課後、校庭のベンチに座っていた大和と蓮。二人は高校三年生となり、進路を決める時期が迫っていた。
「おい、蓮。お前、どうするつもりなんだ?」大和が、真剣な眼差しで問いかける。
蓮は空を見上げながら、答える。「獣医師になりたい。子供の頃から動物が好きでさ。動物を助ける仕事をしたいと思ってたんだ」
「そうだったな」大和は、納得した。
蓮は、にっこりと微笑み、「大和は?」と聞き返す。
「うーん……。ユーチューバーとか、どうかな?」と大和が、ちょっと不安げに言うと、蓮は大笑いをする。
「お前、まさか!? もう、迷惑動画はやめてくれよ」蓮が、笑いながらツッコむ。
夕食のテーブルには、家族が好きな料理が並んでいた。普段は無口な大和が、その日の出来事を話し始める。
「今日、進路面談があってさ」と大和。
「それで、どんな話になったの?」と母親が、興味津々に聞く。
「先生には言わなかったけど、ユーチューバーになろうかと思って」と大和。
父親は、にっこりと笑いながら、「それなら、全力で応援するよ。計画を立てて、しっかりやらなきゃな」と励ましてくれる。
母親は少し心配そうに、「でも、迷惑動画とか、変なことはやめてね。あの事件から、もう何度も言ってるでしょう?」と軽く叱るように言った。
大和は、うつむきながら、「うん、わかってる。本当に、あのときのことは後悔してるよ」と、料理に箸を伸ばした。
大和の机の上に、ノートが広げられている。ページをめくりながら、新たな動画のアイデアを詰めていく。
「深夜の叫び」深夜に公園で大声を出して、近くの住民の反応を撮る。
「ランダムフードチャレンジ」レストランで、ランダムに他のお客さんの注文を取ってみる。
「エスカレーターストップ」ショッピングモールのエスカレーターで突然立ち止まり、後ろの人の反応を見る。
「驚きのドアベルチャレンジ」早朝に無作為に家のドアベルを鳴らして、その家の人の反応を撮影する。
自分のアイデアを読み返して、大和は気づいた。それは自分の企画が、どれも他人に迷惑をかけるものばかりだということだ。ペンを置くと、額に手を当てて深く溜息をついた。「どうして俺は、迷惑なことばかり考えるんだろう」と、自己嫌悪に陥るのだった。
ソファに仰向けに横たわる大和は、心の中で何度も自分自身に質問を繰り返していた。何故自分は、他人に迷惑をかけることばかりを考えるのか。その疑問に答えを求めて、佐野教授のセッションに参加していた。
「大和くん。特定の記憶や出来事が、心に浮かぶことは?」佐野教授の優しい声が、大和の過去へと誘う。
「ある……」目を閉じていると、昔の出来事が頭の中に浮かぶ。喧嘩をしたり、冗談を言い合ったりした親友、蓮の顔が浮かぶ。そして、その顔が少しずつ怒りの表情に変わる。大和の胸が、締め付けられるような感じがした。
「何が思い出しましたか?」と佐野教授が問いかける。
大和は、ためらいつつも声を震わせながら答える。「蓮の給食に、こっそり唾を入れてた。喧嘩するたびに……。でも、蓮は気づいてないと思う」
佐野教授は目を丸くして、驚いた様子で言う。「あなたは、小さな頃から迷惑だったのね。とても興味深いです」
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