第3話 曾祖父の炎上
夜が深まる中、家族会議が開かれた。リビングに集まった大和と両親の空気は、とても重たかった。一人息子の過ちで引き起こされた騒動は、家族の生活に深刻な影響を及ぼすこととなりそうだった。
父親は眉間に深いシワを寄せながら、話し合いの中で「賠償金なんて払う、お金がない」と何度もつぶやく。母親は、テーブルの上に広がる家計の帳簿を眺め、憂鬱そうな顔をしていた。
その横で大和は、何も言えずに、ただ下を向いていた。自分の身勝手な行動が家族を、このような困難な状況に追い込んだことに、責任と無力さを痛感していた。
そんな中、家の電話が鳴り響いた。母親が受話器を取り上げ、少し話した後に大和に手渡す。「大和、おばあちゃんからだよ?」
「はい、大和です」と受話器を取ると、向こうからは祖母の、やや震えるような声がした。「大和、ちょっと田舎に来てくれない? 今すぐに。渡したいものがあるんだよ……」
翌日、夜明けとともに、大和は家を出発した。数時間の旅を経て、昔ながらの町並み、そこに暮らす祖母の家へと到着した。彼は祖母に向かって、家族に迷惑をかけていることや、これからのことについて謝罪した。
祖母は言葉少なに大和を手を取り、古びた蔵へと連れて行った。その蔵の奥から、古い木の箱を取り出し大和に差し出した。「これは、大和のひいおじいちゃんが残した、大切なフィルムよ」と祖母は言った。
大和には、その古いフィルムが、どう役立つのかを理解できなかったが、祖母の温かい瞳には、何かを訴えかけるようなものを感じた。「ご先祖様も、大和を見守ってるのよ」と祖母は微笑んだ。その言葉に、大和は心からの安堵を感じた。
映像は粗く、モノクロの風合いが漂っていたが、その中での曽祖父の行動は明らかだった。彼が飲食店で、客が食事をしているテーブルに近づき、こっそりと調味料をこぼしたり、料理の上に、ちょっかいを出している。音声はなかったが、他の客の驚きや困惑の様子が、彼らの身振り手振りから伝わってきた。
「驚きね……」と美咲が、声を震わせながら言った。
「こんな映像が戦前から、あったなんて……」と健太が、驚きの表情を浮かべた。
大和は頭を抱え、「何でうちの家系は、こんなことばかりしてるんだろう」と、つぶやいた。
佐野教授は考え込んでいたが、しばらくして、「これは心理学的に、非常に興味深い。家族間で繰り返される同じ行動パターン。探る価値があります」と述べた後、フィルムのデジタルコピーのリクエストを出した。
大和の目には突然、輝きが見えた。「あ、そうだ!」と彼は立ち上がった。
大和のSNSは、また急激に注目を浴びることとなった。「僕のひいおじいちゃん」のタグで投稿された動画は、時代を超えて続く家族の迷惑行為を、ある種のユーモアとして楽しむ人々によって、瞬く間にシェアされていった。動画には、様々な感想が寄せられていた。その中には「こんなの笑ってしまう」「昔から変わらないものだね」と、楽しんでいる人々も多かった。
しかし、大和の過去の行為を厳しく非難する声も続出する。それでも、大和は毎日のように反省文をSNSに投稿した。その真摯な態度に共感するフォロワーが急増し、彼の投稿には、多くの心温まるコメントが寄せられた。
「大和くん、過去の行為は許されないけど、今の君を応援しているよ」
「家族の歴史に正直に向き合う姿勢、素晴らしいと思います!」
そんな中、飲食店チェーンの公式アカウントには、大和に対する寛大な処置を求めるコメントが殺到。その声を受け、飲食店チェーンは、大和と家族への訴訟の中止を公式に発表した。
研究室の一角に置かれたソファに、大和は仰向けに寝ている。部屋の照明は少し落とされ、落ち着いた雰囲気が広がっている。壁には資格を示す賞状や心理学の専門書が並べられている。佐野教授が横に座り、メモを取りながら質問をしている。これは、心理療法のセッションの真っ只中だ。
「大和くん。あなたが幼少期に経験した出来事を、一つ一つ思い出して話してみましょう」
大和は深く息を吸ってから、ゆっくりと話し始める。彼の頭の中では、幼馴染の蓮の怒った顔が浮かんでくる。大和は、その顔を忘れられない。なぜ蓮が自分に怒っているのか、その理由が見当たらないのだ。
「大和くん。蓮くんとの間に何か特別な出来事、思い出せることはありますか?」
大和は、深く考える。子供の頃、二人は何度も一緒に遊んでいた。しかし、何か特定の出来事が引っかかってくるわけではない。その答えを見つけるため、セッションは続けられる。
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