第7話 謝罪

 高校の放課後。校庭の一角にある木陰のベンチで大和と蓮は、そう遠いわけでもない、昔のことを話していた。運動部の部員たちが練習をしている中、二人は穏やかな風を感じながら、静かに昔を振り返っていた。


「蓮。小さい頃、俺がやってたことがあってさ……」と大和が言い始めると、蓮は不思議そうな表情で彼を見つめた。大和は、蓮の給食に唾を入れていたことを告白して、謝罪した。


 蓮の顔が青ざめ、立ち上がってトイレに駆け込んでいった。


 しばらくして、トイレから戻ってきた蓮の目は、怒りに満ちていた。「なんで今さら、そんなことを言ってくるんだよ! そんな懺悔、かえって迷惑だと思わないのか?」と、彼は声を震わせながら言った。


 大和は「気づかなかった。ごめん……」と、また謝罪した。


 蓮は、じっと大和の目を見つめ、「今更、そんなこと知りたくもなかった」と言った。


 大和は謝罪の言葉を繰り返したが、蓮は手を挙げて話を遮った。「もういい。それが大和だから……」


 二人は、しばらく黙ってベンチに座ったまま、過去の思い出に浸っていた。



 電車の中で、窓の外の景色を眺めながら、大和は深く息を吸い込んだ。蓮からの叱責が心に重くのしかかっていたが、同時にある種の開放感も感じていた。長い間、抱え続けてきた罪悪感に、少しだけ向き合えた気がしたのだ。


 電車を降りると、大都市の喧騒が彼を迎えた。人々が忙しく行き交い、高層ビルが立ち並ぶ中で、大和の心には新たな決意が芽生えていた。


 あの時、無分別な行動で多くの人々に迷惑をかけてしまった。今更、何を言っても取り返しはつかないだろうが、せめて直接謝罪することくらいは、彼自身のためにもなると思った。


 ビルの巨大なガラス窓に映る自分の姿を見つめながら、大和は少し緊張した表情で飲食店チェーンの本社ビルのエントランスへと足を進めていった。



 頭を下げた大和は、飲食店チェーンの社長の前で、次の言葉を探していた。社長からは、期待していた温かい言葉や受け入れの気配はなく、代わりに冷たい現実が突きつけられた。


「私が何を言っても、面白おかしくSNSに書かれるんだろう?」


 社長の言葉に大和は、さらに頭を深く下げた。


「謝りに来たつもりが、またも迷惑をかけてしまいました。本当に申し訳ございません……」


 社長の目は、厳しいままで大和に向けられた。「気が済んだら、帰ってくれ」


 大和の謝罪は、受け入れられないままで終わってしまった。彼は、黙って社長室を後にした。



 夜の静寂が部屋を包む中、窓の外からは都会の光が、ぼんやりと差し込んでいた。大和の部屋の照明が、優しいオレンジの光で部屋を照らし、時折外からの車の音や遠くの騒音が聞こえる。部屋の中央には、ふかふかのクッションが置かれていて、その上で大和と蓮が向かい合って座っていた。


 蓮は、大和が先ほどまで語っていた失敗談を思い出し、頭を振りながら軽くため息をついた。「お前って、何をやっても迷惑になるんだな?」と彼は呆れて言った。


 大和は何も言わずに、ただうなずいた。彼の心中は、言葉にできないほどの後悔と自己嫌悪で満たされていた。


 その時、蓮が目を輝かせて大和の本棚から漫画の単行本を一冊取り出した。彼はページをパラパラとめくりながら、にっこりと微笑んで大和を見つめた。「でもさ。お前みたいな奴、現実にいると迷惑だけど、この漫画の中だったら、すげえ面白いキャラクターにならないかな?」と提案するように言った。



 部屋の片隅の机の上で、大和は真剣な眼差しでノートにペンを走らせていた。彼の手元には、かわいらしい女の子の絵が描かれていたが、何となく違和感のある線で、その女の子は若干不自然に見えていた。


 蓮が、そっと大和の肩越しに絵を覗き込み、思わず笑ってしまった。「ダメだな、こりゃ……」と笑いながらつぶやくと、大和は恥ずかしそうにペンを置いた。


「絵は苦手だけど、物語を考えるのは好きなんだよな」と大和は小さな声で言った。蓮は瞬時に次のアイデアを思いついたようで、大和の目を真剣に見つめて、「じゃあ、小説を書いてみたらどうだ?」と提案した。「最近の技術なら、AIが文章を書いてくれる。お前のアイデアを形にするのに、ぴったりだろ?」と、蓮は大和を励ました。

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