密探偵室〜名探偵ペトルーシ最後の事件〜
北 流亡
名探偵ペトルーシ最後の事件
刑事スミスは社長室のドアを蹴破った。
ドアは細かい部品を撒き散らしながら、内側に倒れる。
スミスは銃口を正面に向けたまま、ぐるりと社長室を見渡す。
「遅かったか……」
株式会社シルエットカンパニーの社長フルシアンテは、机の上に突っ伏していた。
その背中には、ナイフが深々と突き刺さっていた。
「これは他殺ですね」
ペトルーシが白い手袋をはめて、死体を検分する。
ジェイムズ・ペトルーシ——弱冠23歳ながら、世界を股にかけ数々の難事件を解決してきた名探偵である。
ニューヨーク市警の「鬼刑事」ことスミスも、彼の手腕には一目置いていた。
「被害者は一突きで背中から心臓を刺されている。実に鮮やかでエレガントな犯行だ。犯人は相当の手だれで容姿端麗で頭脳明晰だと推測される」
「ペトルーシ君?」
「犯行時刻は血液の凝固具合から見て、20〜30分前でしょう。犯人はまだそう遠くにまで行ってないと思われます」
ペトルーシは社長席真後ろにある窓を見た。
眼下には眩いほどの夜景が広がっている。
「ここ、シルエットカンパニーの社長室は地上160フィートにある。壁面は凹凸が少なく、外から登ってくることは不可能だ。それに窓ははめ殺しだ。そして、部屋のドアには内側から鍵がかかっていた。スミスさん、これが何を意味するかわかりますか?」
「……」
「そうです! この部屋は密室なんです!」
「ペトルーシ君」
スミスは拳銃をホルスターには収納していなかった。構えてはいないものの、右手に持っていつでも射撃出来るようにしていた。この部屋の中で隙を見せてはならない。
一方ペトルーシは無警戒に部屋を調べていた。あちこちに這いつくばって、床や机の下、物陰を入念に特注の
「駄目だ。証拠が見つからない。いったいどうやってこの密室を成立させたんだ」
「ペトルーシ君……」
ペトルーシは顎に手を当てて思案する。
「まず動機の線から洗った方が良いかもしれませんね。私の調べによると、秘書のナッシュさん、市議会議員のビル氏、ゴソウ専務が被害者に強い恨みを——」
「ペトルーシ君!」
スミスはペトルーシの言葉を遮って言った。
「私がドアを蹴破ったとき、どうして君はこの部屋の中にいたんだね?」
密探偵室〜名探偵ペトルーシ最後の事件〜 北 流亡 @gauge71almi
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