第130話 ヘブラァの絶望
2人の奴隷には見覚えがあった。
1人は角刈りの男。
「お、おまえは……。カクガリィダン」
そうだ。
魔王親衛隊 土組の隊長だった男だ。
そうして、もう1人は、勇者風の少年。
この見た目。間違いない。
「おまえはセア……」
2人は右手の甲を見せた。
そこには奴隷紋がしっかりと刻まれている。
「お、おまえたち……。奴隷になっていたのか」
2人は、なんともいえない気の抜けた表情をしていた。
「フォッフォッフォッ。さぁ、いつものやつを」
「「 はい 」」
すると、2人は土下座をして、何度も額を地面に付けた。
「「 人間様に感謝! 感謝! 感謝ーーーー! 」」
なにぃいいいいいいいいい!?
「な、なにをやっている!?」
カクガリィダンが初めて口を聞く。
「見本です。さぁ、やって!」
「はぁああああああ!? そんなことができるわけがないだろう!」
「あなたの甲には奴隷紋があるはずだ。もう逃げれないんですよ!」
「だからって、どうして雑魚種族の人間なんぞに感謝する必要がある!!」
「わあぁあああ! バカ! なんてことを!!」
「バカだと? 貴様、誰に口をきいているんだ?」
「規律正しく言わせていただきますよ、魔王様──。いや、ヘブラァ! あんたはもう奴隷なんだ!! 私の後輩なんだよ!!」
「こ、後輩だとぉ!?」
「そうだ! 先輩のいうことはきけ! さぁ、土下座しろ!! さっきのセリフを言いながら3回、頭を下げるんだよ!」
「ふざけるな! そんなことは許さんぞ!! 貴様が先輩であることも、さっきのセリフを言うこともなぁあああ!!」
カクガリィダンは
「ふざけるなヘブラァ! 奴隷の教育は連帯責任になるんだ!! 早くやれぇえええええええ!!」
「貴様ぁ! ぶち殺してやる!!」
「そんなことができるもんか! 殺意を抱いたり、相手に危害を加えようとしたりなぁああ! そんな自由は私たちに無いんだよぉおおお!」
「い、今、首を絞めているじゃないかああああ!」
「これは教育だからだぁああああ! 先輩奴隷の教育は許されているんだよぉおおおおお!! 早くやれぇえええええええ!!」
「ぐぬううううううう!! て、抵抗できん!! どういうことだ!?」
こいつが言っていることは本当なのか?
「フォッフォッフォッ。なにを2人でごちゃごちゃと言っておるのじゃ。教育的指導じゃな。ほれ」
バリバリバリィイイイイイイイイイイイン!!
「「「 ぎゃぁああああああああああああああ!! 」」」
我々、3人に奴隷の雷が落ちる。
勇者セアが私の襟を掴み上げた。
「ふざけんな、おっさん!!」
お、おっさん!?
「あんたがすっとろいから、僕たちにも雷が落ちるんだよぉおおおおお!!」
「んぐ……」
「そもそも、ザウスに負けたからこんなことになってんのにさぁああ! 自覚しろぉ!!」
……た、たしかに。
奴の
一時はレベル100億という最強の存在だったのに……。
「期待してたのによぉおお!! この無能がぁあああああああ!!」
ぬぐぅううううう!!
好き放題言いやがってぇ!!
「セア! おまえだってザウスに負けたじゃないか! そもそも勇者の証を奪われたのはどこのどいつだ!? あの証さえなければ
「ふざけるな! 自分の無能を棚に上げて人を責めるんじゃない!!」
「敗北の原因を明らかにしているんだ!! 勇者が雑魚魔族に負けるんじゃない!! 全て、貴様が原因だ!!」
「違う! おまえだ!! 魔王のくせに部下に負けるんあじゃない!! この無能がぁああああああああ!!」
2人の言い合いに、カクガリィダンが参加する。
「だったら言わせてもらう! 規律正しく考えて! ヘブラァはバカなんだよ!!」
「だ、誰がバカだぁああああああああああああ!!」
「レベル100億になった時になぜ、ザウスを追い込んだぁああああああああ!! 力の差は歴然だったはず! すぐに殺していればこんなことになはならなかったのだぞ!!」
うぐ! 的確に痛いところをついてくる。
そ、そのとおりなんだ。あの時、奴を倒していれば、こんなことにはなっていなかった。
ついうっかりレベル100億の力を試したくなったのだ。それと、なにより、ザウスに後悔をさせてやりたかった。
過去に戻れるならやり直したい。
あの時が本当にチャンスだったのだ。悔やんでも悔やみきれん。
「せっかくのチャンスを無駄にしよって! 規律正しく考えて、それでも魔王か!? この無能が!!」
「そもそも貴様は、レベル100億のことをなぜ知っているのだ!?」
「
「ぐぬぅ! 誰がクソ雑魚だ──」
バリバリバリバリィイイイイイイイイインッ!!
「「「 ぎゃぁあああああああああああッ!! 」」」
再び落雷。全身に激痛が走る。
い、痛すぎる……。
この痛みは反骨精神を削ぐ。
「フォッフォッフォッ。私語はそれまでじゃよ。内輪揉めをして良い自由なんぞ。おまえさんたちにはないのじゃからな。さぁ、迷惑をかけた謝罪をするのじゃ」
しゃ、謝罪だとぉおおおお!?
すると、2人は即座に土下座を始めた。
「「 村長様に謝罪させていただきます。申し訳ありませんでした。そして、人間様に感謝。我々を生かしてくれてありがとうございます。村長様に感謝。人間様に感謝。感謝! 感謝! 感謝!! 」」
ひぃえええ……。
2人揃って同じ文言を……。
あ、あいつら何回、同じ謝罪を繰り返しているんだ?
突然、
バリバリバリバリィイイイイイイインッ!!
「ぎゃああああああああああああああああッ!!」
「フォッフォッフォッ。まずは、あの子供に土下座をするのじゃ。長い文言は追々覚えれば良いじゃろう。まずは『申し訳ありませんでした』じゃな。あの子の命を狙ったことを心から詫びてもらおうか」
そ、そんなぁあああ!
そもそも、魔王である
そ、それがこんなクソガキに土下座だとぉおおおおおおおお!?
セアは
「おい。良い加減にいうことを聞いた方が身のためだぞ。奴隷の雷は激痛が走るけど、絶対に死ぬことはないんだ。あんな落雷を何十回と喰らってると気が狂ってしまうぞ」
うううう……。
わ、
地面に両手をついたその時だ。
上空に人が浮かんでいるのが見えた。
あれは!
イケメンダール様だ!!
やった!!
すると脳内に声がする。
『やぁ、ヘブラァ。大変だったね』
『ありがとうございます! 助けに来てくれたんですよね!?』
『まさか。そんなことをしたらザウスに殺されるよ』
え?
『彼のレベルは100
『し、しかし、過去に戻る方法があるならザウスを倒せますよ! 諦めるのはまだ早いです!! あなたの力ならそれができるでしょう? 2人でザウスを倒しましょう!!』
『だから無理だって。時間の動きはザウスの
『そ、そんなぁあああああ〜〜』
『僕が助かっているのは世界の崩壊を防ぐためさ。僕の魔王紋が消滅すれば僕がいた世界は崩壊するからね。魔王は世界の均衡を保つのに必要な存在なのさ』
そうだった……。
『君とはお別れを言いに来たのさ。今回の戦いは完敗だ。圧倒的な敗北。流石にレベル100
『あああああ……』
き、希望が……。
逆転のチャンスはないってことか。
『最後に君にアドバイスをしておこうか』
お!
逆転はあるのか?
『は、はい! ぜひアドバイスお願いします!!』
『先輩奴隷の言うことは極力聞いておいた方がいい。あまりに反抗的だと、教育と称して夕食の干し芋を奪われてしまうからね』
『え? そ、それがアドバイス?』
『奴隷の身分は一日一食だというからね。その日の干し芋が食べれないと苦労をするよ』
『そ、そんなしょうもないこと……』
『それじゃあね。僕は元の世界に帰るよ。もう二度と会うことはないと思うけどさ。達者でね』
そう言って、亜空間に消えた。
あああああ最悪だ。
希望の芽は絶たれた。
「フォッフォッフォッ。なにをしておる。早う土下座せんか。雷を落とされたいのかの?」
「ま、待ってくれ! いや、待ってください!!」
ク、クソォオオオ……。
わ、
雑魚種族の人間に土下座をするのか……。
両手をついて、額を地面に付けた。
「も、申し訳……ありませんでした」
ブラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……!!
ザウスとなんか戦うんじゃなかった。
ああ、後悔しかない……。
☆
時間は昨日に戻って、ヘブラァがアルジェナによってぶっ飛ばされた直後の話。
〜〜ザウス視点〜〜
さて、問題はこの魔王紋だな。
これを消滅させると、この世界の均衡が崩れて存在が崩壊してしまうんだ。
つまり、俺が魔王にならなければならない。
しかしな。
すでに俺の右手には魔公爵紋と勇者の証がある。
そこに魔王紋が入るのはどうにも面倒だと思うんだ。
なにせ、
というわけで、時期魔王になる存在をみんなの前に連れてきた。
人探しは、
まずは、探したい人間を脳内にイメージする。あとは部屋の力で
移動も簡単だ。
探し人を見つけたら、
で、そいつらを連れて元の場所に戻ればいい。
はい。次期魔王のご到着〜〜。
「ひぃえええええええ! 真面目な話ぃいい! 命だけはお助けを!!」
「こ、怖いコツゥウウ!」
────
本作は書籍化が決定いたしました!
応援してくれた皆様のおかげです!
ありがとうございます。
レーベル、発売日の情報はもう少しお待ち下さい。
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毎週 日曜日 12:11 予定は変更される可能性があります
【書籍化決定】転生した中ボスはレベルを999にして主人公を迎える〜勇者はカンストレベルを99と見誤っているようです〜 神伊 咲児 @hukudahappy
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