第129話 魔王ヘブラァの末路

「フォッフォッフォッ。わしはハジメ村の村長じゃよ」


 ふん。

 雑魚の人間か。

 どういうつもりか知らんが、われを助けるとは殊勝な奴よ。


「ククク。よくやった。雑魚種族にしては偉業だ」


「なんのことじゃ?」


われを助けたことよ。ブラァアアア」


「フォッフォッフォッ。おまえさんを助けるのは当然じゃな。なにせ、この村にとっては大切な財産なのじゃからなぁ」


 はぁ?

 このじじい。雑魚人間のくせに妙なことをいう。

 まぁ、いい。われを助けた功績に免じて殺すのだけは許してやろう。

 そんなことより、


「おい。ザウスはどこだ? あいつはどうしている?」


「はぁ?」


「ザウスの状況を聞いているのだ」


 奴のレベルは100 那由他なゆた

 対するわれのレベルは666。

 随分と弱体化させられてしまったが、生きているなら逆転のチャンスはある。

 時空の穴より、 湧き出る怪物ワイテデールを出現させて、吸魔の法で吸い続けてやるのさ。

 何年かかるはわからない。だが、必ず強くなってやるさ。


 そもそも、この世界が崩壊していないのは魔王の存在であるわれがいるからだ。

 人族と魔王とで世界魔力の均等がとれている。われなくして、この世界はあり得ない。

 封印もせずに野放しにするなんて詰めが甘い。やはり、ザウスは雑魚魔族だ。世界の崩壊を恐れてわれの命を奪らずにおいたのだな。

 ククク。バカが。われを生き残らせた時点で、それが命取りになるのだ。

 時間はかかっても、再び、世界の頂点に君臨してやるさ。

 われは魔王。最強の存在なのだ。


「おい。聞いているのか? ザウスの状況を教えろと言ったのだ」


「バカもん」


 と、じじいは持っている杖でわれの頭を叩いた。


ボコッ。


「ほげぇ!」


 痛い!

 なにぃいい!?

 たかだが雑魚人間の攻撃がわれにダメージを与えるだと!?


「ザウス様と呼ぶのじゃ。あのお方は我々の大恩人なのじゃぞ」


「ふん! ふざけるな!! ザウスに様付けなんぞするもんか! 奴は雑魚魔族──」


ボコォッ!


「へぎゃああああッ!」


「やれやれ。おまえさんは、口の利き方から教育が必要なようじゃな」


 な、なぜだぁああああ!?

 レベル666のわれが、こんなじじいの攻撃が避けれないだとぉ?

 それどころか、ダメージがある??


 なぜだ?

 そもそも、杖が折れない理由がわからん。

 ただの棒切れに見えるあの杖は、名前の通った武器なのか??


 ええい!

 まずは、じじいから鑑定だ。

 こいつの正体を探ってやる。




名前:ヒヨワーノ・ヨボヨーボン


種族:人間


職業:村長


ステータス:モブ




 出た。

 ステータス、モブ扱い。

 天啓を受けない雑魚中の雑魚。

 レベルが存在しない、最弱の存在だ。

 ならば、杖が強いのか? 鑑定!




名前:ただの木の杖


能力:モブアイテム




 出た。

 一切の能力が存在しないモブアイテムだ。

 普通は装備すらすることができないカスアイテム。

 ステータスが存在しない、どうでもいいアイテムだ。


 いや、ならばなぜだ?

 あんな杖ならばダメージが通るはずはないのだ。


ボコンッ!


「あぎゃ!」


 クソ! また殴りやがった。めちゃくちゃ痛い。


「ほれ。言うてみよ。ザウス様じゃ!」


「だ、誰が言うもんか! あんな雑魚魔族!」


 再び杖の殴打攻撃。

 ええい。こんなモブキャラの攻撃なんぞ。

 レベル666のわれには通じ──。


ボコォッ!


「へぎゃぁああ!!」


 なぜだぁあああああああああああああ!?

 杖がわれの腕を貫通したぞ!?

 防御ができん!

 一体、どうなっているんだ??

 モブキャラのモブアイテムの攻撃が防御できないだと!?


「フォッフォッフォッ。まだ、自分の身分がわかっていないようじゃのう」


「ふざけるな! ぶち殺してやる!!」


 われに逆らったことを激しく後悔するがいいさ!


上級ハイ フレア火炎魔法!」


 われの手の平から大きな火球が出現する。

 それはじじいに命中──。


 せずに、われに向かって跳ね返った。


「なにぃいいいいいいいいいいいいいい!?」


 われは爆発によって吹っ飛ぶ。

 家の壁を破って外に飛ばされた。


 な、なぜだぁああああああああああああ!?


 われの魔法が跳ね返っただとぉおおおおおおお!?


「フォッフォッフォッ。無駄じゃよ」


 そ、そんなぁああ……。

 奴はノーダメージだ。


 どうして!?

 なぜだぁああああ!?

 奴はモブキャラ。

 われは魔王だぞぉおおお?


「ハ、 上級ハイ 回復ヒール……」


 ぐぬぅううううう……。


 丁度その時、親子連れがわれを見ていた。

 

「母さん。あいつだよね」

「ええ。あれがヘブラァよ」


 鑑定でステータスを見るとモブキャラ扱いになっている。

 いいタイミングだ。


「おい、じじい! われに近づくんじゃない! あの親子をぶっ殺すぞ!」


「フォッフォッフォッ。そんなことができるわけがないじゃろうが」


 舐めやがって。


「後悔するがいい!」


 ガキの方を殺してやる。

 頭をもぎ取れば、母親は泣き叫び、じじいはわれに恐怖するはず。


「ブラァアアアッ!! 死ねぇええ!!」


 ガキの頭を掴み取ろうとしたその時である。


バジン……!!


 見えない壁がわれの攻撃を阻んだ。

 ガキの体に触れることさえできない。


 なにぃいいい!?

 こんなガキが魔法壁を発生させるだとぉおおおおおお!?


「母さん。やってもいい?」

「ええ。いいわよ。教育は必要なんだから」

「うん。じゃあ、やるよ。えい」


 ガキがわれに向かって指を刺す。

 その瞬間である。


バリバリバリィイイイイイイイイン!!


 雷がわれの体に飛来する。


「ぎゃぁあああああああああああああああッ!!」


 どういうことだ!?

 モブのガキが 雷魔法サンダーだとぉお!?

 いや、違うぞ。

  雷魔法サンダー程度で我はダメージを受けない。

  雷魔法サンダーの上位魔法か? モブのガキが上級魔法を??


「フォッフォッフォッ。それは奴隷の雷じゃよ」


「ど、奴隷の……雷だとぉおおお……?」


 右手の甲を見る。

 そこには幾十もの奴隷紋が刻まれていた。


「な、なんだこれ……!? 奴隷紋だと!? それも何重も重ねて描かれている!?」


 それに、魔王紋が消えているぞ!?

 われのシンボルが無くなっている!?


「フォッフォッフォッ。おまえさんがこの村に飛んで来たのは昨日の話。ザウス様がおまえさんの力を 吸収魔法ドレインタッチで奪ってしまったんじゃよ」


「な、な、なんだとぉおおおおおおおおおお……!?」


 そ、それじゃあ……この奴隷紋は!?


「フォッフォッフォッ。ザウス様より、 大賢者の輝く部屋ワイズマンルームでメッセージが送られてきてのぉ。おまえをこの村の奴隷にすることになったのじゃよ」


「な、なにぃい……。つ、つ、つまり、この重複した奴隷紋は……!?」


「村人全員の主従契約じゃよ。わしだけではない。そこにいる子供も。母親も、全ての村人がおまえの主人になったのじゃ」


「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」


 わ、われが人間の奴隷になっただとぉおおおおおおおおおお!?

 この世で一番最弱の雑魚種族、人間の奴隷だとぉおおおおおおおお!?


「ほれ。おまえたち。後輩に見本を見せるのじゃ」


「「 はい 」」


 え?

 

 村長の家から出てきたのは2人の奴隷だった。


 こいつら……見覚えがあるぞ!?

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