交差点にて

交差点にて

　交差点には他人の４人。

　突然前の男が、唾（つば）を路上傍（わき）に吐き捨てた。

　おわっ！　汚（きった）ねぇ！

　そんで、信号無視して歩いて行きやがった。

　こーいうやつはなんもかんも、そんなふうにして生きてるに違いない。

　全くもって、疑いの目でしか見れねぇよ。

　億歩譲って、人前でペッてやるたぁ恥かしいとは思わんのかぃ。

　いや。

　そもそも、人を人と思って生きてねえな、アイツ。

　あーいうやつに限って、案外自分の服とか家ん中とか、小綺麗にしてやがるんだ。

　カミさんなんかにも、偉そうにしくさって。

　子供にも、若かりし頃のイキったなんかを、武勇伝みたく語っちゃてんだ。

　俺なんか妄想でよ。

　俺と添い遂げてくれる愛しい女（ひと）に出会えたら、始終とびきり大事にできるよう、常にイメトレしてんだ。

　急に人に優しくなんつっても無理だろ？

　実践に限るってなもんで、会社の熟成レディや、なんだかなおじちゃんどもにいたるまで、日々優しさ出力強化月間よ。

　アイツ、後頭部のてっぺん。

　薄毛になってんのちゃんと自分で気付いてっかなあ。

　合わせ鏡であえて見なきゃ分かんねえとこだ。

　どーだろ。

　気づいてない、に一票。

　俺のが背がちょい高いから、ばっちり見てやったぜ。

　俺なんかM字が産声（うぶごえ）あげて久しいから。

　現実真っ正面から見据えて生きてっから。

　始終あちこち、逝き急いでないか毎日鏡で確認してんだ。

　信号が変わった。

　あんなクソみたいな見知らぬ男に、人生の数秒？　数分？　思考が掠（かす）め取られた。

　ああ。

　勿体ねえことしちまった。

　後悔ですら勿体ねえ。

　俺は痰（たん）は出ねえし、もしも出すならティッシュ使うわ。

　そんで持ってなけりゃ飲み込んどるわ。

　キモくたって俺のもんは俺が責任とる。

　それが大人の嗜（たしな）みっちゅうもんだろ。

　アホくさくとも、止まるときゃ止まって。

　しょぼくたって、小汚いもん撒き散らかさずに。

　青になった正しさで。

　俺は俺なりに、ぼっつら歩いていくまでよ。