第107話 新たなる時代へ
将軍足利義藤が望んだ戦の無い世の中へと向かいつつあった。
すでに西国では戦は終わりを告げ、ほとんどの大名が大阪に屋敷を構え妻子を住まわせていた。
それに倣い、東国の大名たちも大阪に屋敷を構える様になって来ていた。
将軍足利義藤は大阪城に入ると側近の細川藤孝を呼ぶ。
「藤孝。今大阪に屋敷を構えず、妻子も住まわせていない者はいるのか」
「東国の大名で一部おりますが近日中には屋敷が完成。妻子を住まわせると申しております」
「古河公方はどうしておる」
古河公方とは、幕府が東国を管理するための役職である鎌倉公方の流れをくむ。
公方とは将軍の意味であるが、正式な将軍では無いため公方と呼ばれた。
古河公方はすでに乱世の世で大幅に弱体化しており、事実上相模北条の支配下にあるため将軍足利義藤からすれば存在意味のないものになっていた。
「まだ渋っておられる様です」
「古河公方に幕府に従えない者は残らず朝敵・幕府御的として討伐すると申し渡せ。古河公方であろうと例外は無い。関東以北でいまだに従わない大名達に最後通告を出せ。従わぬなら現在北条を包囲している幕府軍20万を北条討伐後に動かし全てを更地にすると」
「承知いたしました」
「北条包囲軍はどうなっている」
「今川義元殿を総大将として周辺諸大名を集め、小田原城を兵糧攻めにしております。そろそろ四ヶ月になろうかとしております。おそらく兵糧は完全に尽きているものと思われますので時間の問題でしょう」
「包囲に抜けはないのだな」
「海も水軍衆を動員しており、3万隻の船で周辺海上を隙間なく抑えております。小田原城の支城も全て攻め落としており、北条家の家臣・国衆は小田原城の籠城しているもの達を除いて、全て幕府に降伏しておりますので援軍はありません。すでに包囲軍は万が一に備え、他の大名家からの攻撃に備えておりますので、これをかいくぐり兵糧を送る大名はおりません」
「幕府軍の兵糧は問題無いのか」
「全て滞りなく」
「北条側の士気はどうなっている」
「ほぼ戦う気力を失っております」
「よかろう。北条が根をあげるまで徹底的に締め上げよ」
そこに走り込んでくる足音がする。
「上様」
「なんだ」
「小田原城包囲軍総大将今川義元殿より報告」
「義元殿か」
「小田原城が開城。北条家は上様の沙汰に従うとのこと」
「ようやくか」
「沙汰は如何いたしますか」
「幕府軍を動かすこととなったのだ。責任は取ってもらわねばならんだろう。小田原城包囲軍総大将今川義元殿に、北条氏康は切腹。嫡男氏政は高野山へ流罪とすると伝えよ」
「承知しました。直ちに今川義元殿に伝えます」
将軍足利義藤は側近の細川藤孝と共に大阪城天守から城下を見ていた。
活発に商いを行い多くの人々が行き交う商都。
多くの店々が立ち並び、多くの大名屋敷が次々に作られ始めていた。
武家屋敷の街が大阪城周辺に作られ、その外側に商人や町人の街が作られていく。
沖合の海では多くの大型船が交易のために動いている。
急激に発展していく街並みを見つめながら満足そうに頷いている。
「ようやく戦が・乱世が終わろうとしているな」
「上様の願いが叶いそうですな」
「だが、数え切れぬほど、多くの血を流してしまった」
「上様だからこそこの程度の血で済んだのです。他の者であればこの数倍の血が流されたはずです。いや、他の者であればどんなに早くともあと50年はかかるでしょう」
「そうか。我ら武家は因果なものだ。地獄に落ちる覚悟を持って刃を振るわねば、世の安寧をもたらすことができぬ」
「ですが上様の決意が乱世を終わらせ、世に安寧をもたらしました」
「藤孝」
「はっ、これから新しい国づくりの始まりだ。これからも儂に力を貸してくれ」
「上様。ご命令ください。この藤孝に力を貸せとご命令ください」
「藤孝。儂に力を貸せ」
「お任せください。この藤孝。生涯上様に御仕えいたしますぞ」
「藤孝」
「はっ」
「新たな門出だ。儂は今日から名を変え、義輝とする。儂は今日只今より足利義輝。足利将軍足利義輝である」
将軍足利義藤は、足利義輝と名を変え新たな一歩を歩き始めるのであった。
完!
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長らくお読みいただきありがとうございます。
2024年9月21日より新作小説である戦国ファンタジー小説、上杉謙信を投稿いたします。
タイトル【越後の龍 再び!】
9月21日ー5話、9月22日ー5話、以降は2〜3日に1話程度の更新予定です。
投稿開始までしばらくお待ちください!
剣豪将軍奮闘記 大寿見真鳳 @o-masa
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