第106話 賭け

豊前国門司に将軍足利義藤が上陸する。

姫路で南蛮船の見学をした後、安宅船日本丸を使い豊前国に到着したのであった。

日本丸を下船して陸に上がると、すぐさま豊前に入っている三好長慶と小早川隆景がやって来た。

「出迎え大儀である」

「上様が無事に到着されて皆がほっとしております」

三好長慶が声をかけてきた。

「海も荒れることもなかったからな。ここまで順調にくる事ができた。それよりも準備はできているのか」

「準備は出来上がっているのですが、少々想定外のことがありましたので、上様の到着をお待ちしておりました」

「想定外だと」

「それに関しては、上様にお休みいただくための屋敷をご用意してありますので、そちらでお話しさせていただいた方がよろしいかと」

三好長慶の目が周辺の様子をさりげなく見る。

その仕草で周辺には多くの耳目があることに気がつく。

遠目には、地元国衆や領民の姿も見える。

「確かにここでは多くの耳目がある屋敷に行ってからにするか」

一行はすぐさま近くに用意された屋敷に移動する。


屋敷に入るとすぐに部屋に入り話を聞くことにする。

「さて、想定外とやらの話を聞こうか」

将軍足利義藤の言葉に小早川隆景が応える。

「それではこの小早川隆景が説明いたします」

将軍足利義藤はゆっくりと頷く。

「分かった。隆景の話を聞こうか」

「大友義鎮が我ら本陣にまで出向いてきて、上様の指示には従うと申し出て来ました」

「想定よりもかなり早いな。まだ、戦いも始まっていないだろう」

「本格的な戦いが起きる前ですので我らも少々戸惑っております」

「大友に奪わせた砦はどうなった」

「砦からはすでに大友の兵は全て退去しております」

「砦からすでに退去しただと」

「はい、わずか1日で退去。砦を手放しました」

「手に入れたものをあっさりと捨てるのは、なかなか出来ん事だぞ。どんなものでも一度手に入れたものは捨てずらいものだ。それをあっさりと捨てるか」

「国境付近にも大友の兵はおりません」

「国境にもいないのか、何らかの計略ではないのか」

「そのことも考え周辺を調べましたがその線は薄いかと」

「う〜ん。どうしたものか」

「大友義鎮にお会いになられては如何ですか」

「大友義鎮に会えと」

「大友義鎮からはぜひ上様にお会いしたいとの要望を聞いております」

「どのみち大友義鎮とは会わねばならん。ちょうど良かろう。大友と会おう」

「すでに大友義鎮と大友家家老・戸次鑑連は控えており、いつでも会うことができます」

小早川隆景の言葉に驚く将軍足利義藤。

「すでにいるのか」

「はい、待機させております。上様に会いたいなら、上様にそれなりの誠意を見せるべきであろうと申しましたら、豊後に戻らず数日前より豊前に止まり、我らに全ての武器を預けた状態で、我らの監視下で待機しております」

「大友義鎮の供回りはどうしている」

「武装解除させ全員監視下においてございます」

「豊後の国衆の動きは」

「今のところ軍勢を集めているような動きは見られません。国境にも軍勢はおりません。筑前・筑後の国衆には、こちらから待機を命じてございますので、勝手に豊後に攻め込んで火種を大きくすることも無いと思います」

小早川隆景の言葉に少し間を置いてから口を開いた。

「良かろう。藤孝、謁見の準備をせよ」

将軍足利義藤は側近の細川藤孝に謁見の準備を命じた。

「承知いたしました。直ちに」


ーーーーー


将軍足利義藤は、門司城へと入った。

門司城は長い歴史を持つ城である。

平安の昔(1185年)に平知盛(平清盛の四男)が家臣に命じて築城させたのは始まりと言われている。

その後、幾度も城主を変えながら乱世の世まで使われていた。

案内に従って進み、広間に入ると上座中央に座った。

門司城に常駐している毛利の者たちが歓迎の酒を出そうとする。

「不要だ。今はそのような時では無い。隆景。さっそくだが、大友義鎮をここに呼べ」

「はっ、承知いたしました」

しばらくすると小早川隆景の後から二人の男が入ってきた。

若い男と四十近い男のようだ。

若い男が大友義鎮。

四十近い男がおそらく戸次鑑連。

しかし、若い男の風体ふうていが異様である。

髪を完全に剃りあげていた。

「大友義鎮で間違いないのか」

「はい、我が名は大友義鎮でございましたが、本日、この通り全ての髪を剃り落とし、出家いたしました。同時に名を大友義鎮改め大友宗麟と名乗ることにいたしましす」

「出家・・宗麟だと・」

「はっ、宗麟にございます」

「なぜだ。伴天連禁止令を無視して、伴天連を保護するほどまでに傾倒していたのではないのか」

「それは、我が未熟さ故の過ち。そのために大切な忠臣を失うところでございました」

「忠臣を失う寸前となり、それで目が覚めたというのか」

「はい。ですが、そうは言っても上様からしたら信じ難いでしょう。ですので、その証としてここ豊前に赴く前に、豊後国内にて伴天連禁令を正式に布告いたしました。伴天連は国外追放とすると全ての国衆に通知。すでに一部の者たちを国外へと追放を始めております」

「宣教師はどうした」

「南蛮人の宣教師はおりませんが、日本人の宣教師はおりました。しかし、その日本人宣教師もすでに国外追放にしてございますから、宣教師はおりません」

「義鎮・・いや宗麟」

「はっ」

「お主がここに来るのが、儂が門司に到着するより後であったら大友家は終わりであった。15万を超える大軍を持って、九州の諸大名への見せしめとして、豊後を更地にするつもりであった。忠臣に感謝することだ。だが、何も咎めを与えぬ訳にはいかぬ」

「はっ、覚悟しております」

「いい心がけだ。ならば沙汰を申し渡す。大友家は豊後南半国とする。豊後北半国は毛利が管理。筑後は幕府管理として少弐冬尚を代官として管理させる。ただし少弐が悪政を行うなら、少弐を解任する。藤孝。少弐にはよく言い含めておけ、あくまでも幕府領地の管理であるとな。肥後は菊池義武に預ける」

「この大友宗麟。全て承知いたしました」

「上様」

「藤孝。如何した。何か問題でもあるか」

「肥前は如何いたしますか」

「龍造寺の争いか」

「はい」

「これ以上の争いを起こすなら、龍造寺家は本家も分家も全て取り潰すことになる。そのように全ての龍造寺家の者たち我が命令として伝えよ。容赦はせぬとな」

「承知いたしました」

「九州の大名たちに即時争いを辞めさせ、ここ門司に集めよ」

「はっ、直ちに通知いたします」

九州の諸大名は門司に集められ、私闘禁止令の遵守を誓わせ、諸大名は妻子を大阪に住まわせ、1年おきに大名家当主は大阪に住むことが命じられることになった。

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