第五話 一族の秘密

 殿下は。

 パーティーでお会いした時すでに、私が"シエラ・グレイフォルド"だと分かっていたらしい。


「あれほど見事な赤い目は、皇家の血を引く者にしか現れませんので」


(それでパーティー会場で、多くの人が私を見て驚いていたのね)


 皇家の方々を間近で見たことがない私は、知らなかった。



「シエラ嬢の母君は、我がイトコ叔母です」


 そこまで血が近いとは、聞き及んでなかったけど。



 ひとめ見て私の身元を察し、さらに私がの状態であることを見てとったらしい。


「僕の血を少しお分けしたら、すぐにもあなたが"種族の力"に覚醒するかと思ったのですが、僕のほうが夢中になってしまって、思わず血を交わしてしまい……。了承もなく失礼しました。でも責任は取らせていただきますので。……その……僕はずっとあなたが良いなと思っていて……」


 幼い頃に会ったことがある殿下は、私との再会を待ち望んでくださっていたとか。


(ごめんなさい殿下。二歳差が大きかったのか、私はお会いしたことを覚えておりませんでした……!)


 覚醒すると様々な能力が行使出来るけれど、一般的には秘されていて、覚醒していない相手にその秘密を明かすことは出来ないらしい。


 殿下のお話によると。


 力の一部には、"血を交わす"ことで互いの心臓の一部を、互いが保管出来るというものもある。

 そしてそれは、"夫婦の誓い"となる。


 心臓さえ隔離しておけば、何度でも、何回でも、蘇生出来る。──たとえ灰からでも。


 皇族に伝わる"再生の力"。


 

 実母のドレスは、母の血から作られた服だったらしい。

 私の血に反応して、私に応じて復活した。

 母が亡くなっていたため、その再生時間に限界があり、帰り道で塵と消えてしまったけれど。



 父が言った。


「辛い思いをさせてすまなかった、シエラ。お前の成長のために用意したペルラとモニカは"ニエ"だったんだが……。お前が彼女たちに従って辛抱強く、ここまで耐えたとは」


 ペルラとは、義母の名前だ。



ニエ……」


「ああ。彼女たちの血を使って、シエラが力に目覚めればよいと」



 父が私の手を握りながら頷く。

 それでギリギリまで私に手を貸さず、ただ、馬車は父の命令で蝙蝠たちが修繕したらしい。

 

(あの黒衣の御者は、父の部下だったなんて)


 私のドレスが消えたせいで、"肌着姿を見るわけにはいかない"と去ったのかしら。

 そういう時こそ助けて欲しかったのだけど……。


 状況を思い出しながら、推測する。





 殿下と父と私。


 その足元には、物言わぬむくろと化した義母と義姉。

 廊下に倒れるのは、血を失った使用人たち。


 私は久方ぶりに満腹を覚えた。


 

("浅ましさ"じゃなくて、本能だったのね……。でも) 



「"眷属けんぞく"にされなくて良かったのですか? お義母かあ様の故国を眷属化するのが、お父様のお仕事だったのなら」


 先ほど、聞いたばかりの話。

 父が三年間、隣国で行っていた仕事は、人知れず我が国の影響力を増す作業だった。


 吸血行為で配下を広げる能力も、種族の力。


 諸外国はおろか、国民の多くは知らない。

 覚醒していないと知らされない。



 秘密の秘密の支配国。



 こうして私は、夜の帝国の皇太子妃となった。

 血を交わした、皇太子殿下の希望によって。



 ガラスの靴は、私の力で作られたものだった。

 覚醒した今は、自由に作ることが出来る。


 ふたつ揃って私の足で。


 今日もダンスを踊るのだった。

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欲望には忠実に。~私が虐げられるのは今夜までです! みこと。 @miraca

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