源氏と江戸の交錯 これもまた楽し

江戸時代、町医者・木居宣長の家に奉公しながら医者修行をする少女が、日々の仕事とともに、先生の文学、とりわけ源氏物語ともののあはれの思想に触れていく物語です。先生は「医業は生計のため、本懐は文学だ」と宣言します。そして町医者として患者の身体だけでなく心まで癒そうとする姿、尊いです。

嫡男が、少女と先生の雪駄の鼻緒が切れた時のために、木綿の裂をそっと渡す場面など、情景と心情が丁寧に描かれます。山桜が煙るように咲く山里の村を目にするくだりも美しいです。

町家の朝の支度、親子の軽妙なやり取り、弟子の胸に芽生える小さなときめき、そして山里への往診の旅路が重なり合って、江戸の空気と源氏物語的な感性が自然に交錯していきます。源氏と江戸が響き合う、温かくも風雅な連続時代小説です。みなさまもぜひ。


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