第31話 ルーダン魔王国7
「……綺麗」
桜吹雪と精霊に歓迎されるかのように城へと続く大通りを竜車は進む。
「なあ、エフィとケイ、これはお前らにも見えてるで良いんだよな?」
ふよふよと降ってくる精霊とおぼしき光の球を見ながら聞いた。
「見えてますね。魔力が多いところでは精霊が顕現して見えるというのは本当だったんですね」
「俺にも見えるな。ついでに言えばお前の膝の上の本がその光の球を取り込んでるように見えるな……」
「……あー、やっぱり目の錯覚じゃなかったかぁ」
いつの間にか膝の上に顕現した魔導書のページに光の球がふらふらと寄っては、ふわっと光って消えていく。
「その魔導書、やっぱり
「そうだね、一応『しおり』の形態がベースっぽいけど本の精霊だし、この島に着いてからは魔導書形態になっているな」
:――――――――――――――――:
名称:
説明:魔導書に挟まった黒い栞の姿をしている本の精霊。
一部の力を行使することができる。
契約済み。
契約者:アズ
:――――――――――――――――:
魔導書も最初はかなりぼろぼろに古びた雰囲気だったが徐々に綺麗になっている気がする。
◆ ◇ ◆
―― 『かいもーん、開門!』
いつしか緩やかな丘を上がった竜車はそのまま城内へと入る。
見上げる先には満開となった桜の花が広がっていた。
「何ともいえない圧を感じるわね」
いまだ吹雪く桜の花びらを見上げて
「それ、たぶん魔力が溢れてるんだと思いますよ。その証拠にほら、『
上に向けて広げた掌に薄っすらと赤みを帯びた火の玉が浮かぶ。
「え?! アズくん、それ、魔法?!」
「ええと、たぶん? ここだと小規模ならフレーズだけで発動するみたいです」
発動する魔法のイメージと唱えるフレーズを思い浮かべた場合になんとなく発動可能かがわかる。
「新しいスキルでも生えたかな?」
「いえ、『
期待に目を輝かせている店長には悪いが既存スキルのパワーアップっぽい。
「とすると、やはりこの桜の樹の影響が大きいか。まあ、十中八九、この樹が精霊樹だろうしな」
「やったなアズ、これでワールドクエストもクリアだ……って、まだクリアにはなってなかったよ……ね?」
ログを見返しているのかケイが指を忙しそうに上下させている。
「ん、『精霊樹の復活』のアナウンスは進行しますとなってた。ついでに言えばエピッククエスト『大迷宮時代』も進行してた」
「エピッククエスト『大迷宮時代』は何か関係があるんですかね。俺、今回は何にもしてませんよ」
「ああ、エピッククエスト『大迷宮時代』の開始トリガーは別件で確定したよ。何の因果かタイミングが僕達がここに着いたタイミングと完全に被ったせいでややこしくなったみたいだね。ただ、『大迷宮時代』が進行したってことはエピッククエストにこの街が関連してるのかもしれない」
そう言いながら店長は目の前に表示されているメニューにせわしなく入力を行っている。おそらくは怒涛のクエスト更新情報等に関する情報のやり取りを行っているのだろう。
広い城内を竜車で進みいわゆる西欧風の城の正面へとたどり着いた。
桜の樹は半ば城と一体化しており、樹の成長に合わせて城を改装したであろう様子が見て取れた。いや、どうやら今も改修中らしく一部には足場が組まれていた。
「精霊樹はここ数ヶ月で急激に成長していまして。しかも本日は急に開花したため各所が慌ただしくしているのです」
案内に出てきた執事さんが精霊樹について教えてくれた。
「やはりあれが精霊樹なんですね。詳しい話をお聞きできますでしょうか?」
「詳しい話はルーダン魔王国の現在の管理者である王が直接お話されるでしょう。なにせ皆様がいらっしゃると聞いてご機嫌でしたからね」
そんな話をするうちに一段と大きな扉の前に到着した。
「それでは私の案内もここまでです。ようこそルーダン魔王国へ、我らが王がお待ちです」
扉が静かに両側へと開いていく――
中途半端な魔法《マジック》は手品《トリック》と区別がつかない 水城みつは @mituha
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。中途半端な魔法《マジック》は手品《トリック》と区別がつかないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます