第30話 ルーダン魔王国6

 フォルダンの街をまわった翌日、ロコノア城下街に向かうメンバーは街の外に集まっていた。


「これが走竜なんですね。思ったよりも可愛いです。あ、結構すべすべしてひんやりしてる」

 エフィがロコノア城下街行きの竜車に繋がれた走竜の頭をなでている。


「エフィも走竜を見たことなかったんだ。ケイは乗ったことある?」


「いや、俺もないな。夏イベの時はフォルダンの街周辺しかいなかったし、その時にはロコノア城下街行きの走竜便はまだなかったと思うぞ」


「夏イベント後にロコノア城下街との街道が整備されたらしい。今回はエリアボス戦も行わずに行くので昼頃にはロコノア城下街に着けるみたいだ」

 他のパーティとの打ち合わせを終えた店長が戻ってきた。

 元々のエリアボスがいたあたりは走竜が通れるようなところではなかったらしいが最近走行可能な広さまで道が広げられたらしい。


「夏イベの時は徒歩で行くしかなかったからね。なにせ直線距離でも20キロはあるし途中は山道だしロコノア城下街まで行ったプレイヤーもそこまで多くはないんだよ。まあ、僕らのクランは最初からロコノア城下街を目指してたから行けたけど……」


「ん、特に最初は周辺モンスターも強かった。ボクたちはエリアボスを倒しに行ってそのままロコノア城下街を訪問したから良かったけど、結局行ったのはその一回だけで後はこっちの街の周辺だけ」


 ロコノア城下街は夏イベント開始時点ではほぼ廃墟だったのがNPCを含む大規模クランによってあっという間に復旧されたらしい。

 なお、夏イベントの段階ではロコノア城下街付近へは到達できない想定だったんじゃないかと店長が考察していた。つまり、北側の島へ渡る洞窟同様にロコノア城下街のある南側エリアの発展もまだ先の予定だったんじゃないかということだ。


 フォルダンの街を出発した竜車は何事もなく街道を走っていく。


「店長、ここらってこんなにモンスターも出ないものなんですか?」

 ここまで結構な距離を走ってきたが、普通なら遭遇して良さそうな


「エリアボス討伐で道沿いのモンスター出現率は下がってるはずだけど、確かに少ないな」


「ああ、それはこいつのおかげですよ」

 走竜の手綱を握っていた御者のおじさんがそう言って走竜を指差す。


「これでも下位竜の仲間でもあるんで弱いモンスターは近づかないんですよ」

 言われて周りをよく見るとちらほら遠巻きに見て逃げていくモンスターがいた。



 ◆ ◇ ◆



 エリアボス出現地点はそこそこ広い広場になっており、 ロコノア城下街からの竜車とのすれ違いポイントとなっていた。

 現在のところ時間を決めて運行することで狭い山道での竜車の利用を可能にしているらしい。また、順番にすれ違える場所を増やしていっているとのこと。


「ん、アズの魔法でエリアボス倒したかった」

 とエリアボス再戦を主張する眠茶ミンティーをなだめすかしつつ、竜車は何事もなく山を下りていく。


「ところで、ロコノア城下街に精霊樹に関係しそうな場所ってありました?」


―― ミッション:精霊樹を探そう


 ワールドクエストは『精霊樹の復活』だが俺のミッションは『精霊樹を探そう』となっている。

 どこかに精霊樹が生えているのか、例えば植えて育てる必要があるのか。

 とりあえず、ロコノア城下街に行ったことがあるジャバウォックのメンバーに心当たりがないかは聞いておく。


「そもそも、精霊樹って木よね。精霊樹信仰があったってことならそれなりに大きい樹だと思うんだけど……銀ちゃんは何か思い当たるのあった?」


「いや、前回ロコノアに行った時にはそれっぽいのは見なかったかな。それに、このルーダン魔王国は一旦滅びたってのを考えると恐らくその時に精霊樹もなくなったか、かなりのダメージを受けたと思うんだよな……だが、アズ君のミッションは『精霊樹を探そう』ってことはどこかにあると考えるべきか……」

 店長は何やらブツブツと考察に入ってしまった。


「まあ、銀ちゃんは置いといて、アズくんもだけど、エフィちゃんとケイくんもロコノア城下街は初めてなんだよね」


「そうですね、私のクランはフォルダン周りだけでしたから。結構楽しみです」

「俺のとこはクラマスとかはロコノアに行ったので話は聞いてますけど、俺自身はフォルダンの周りに柵作ったりしてました」


「あ、ケイくんはアサくんとこのクランだったね。おかげでフォルダンの街も立派になったし、ありがとね。それで、初めてロコノアに行くのなら変わってなければこの先の景色はびっくりするよ。山を出たらしっかり前を見ててね」


 山道を抜け舗装された街道も広くなる。鬱蒼とした木々は減り、街路樹風に街道の両脇に残されていた木の隙間からは広々とした平原が見える。

 少しの傾斜を登りきった先から見下ろすとそこにはロコノア城下街と思われる城塞都市が広がっていた。


「おおーっ、これはラナ王都よりでかいんじゃないか? って、あれ、真ん中に生えてるのって……」

「すげー城壁だな、え、なにあのでかい樹?」


 城壁に囲まれた中央部は丘のようになっており、いかにもな中世風の城と、その城を大きく覆うように巨大な樹から青々と茂った葉が広がっていた。


「え、何あれ? 前来た時は生えてなかったよね、ねぇ銀ちゃん……?」

「……ああ、街自体も前回よりかなり広がってそうだけど、いや、ホントあの巨木はなに?! まあ、多分、確実に精霊樹な気はするけどさぁ……」


 どうやら兎兎ととさんも店長もあの大きく広がる樹については想定外だったようだ。


 皆が唖然としている間にも竜車は街の入口へと近づく。


―― プレイヤーがエピッククエストのミッションをクリアしました。

   これによりエピッククエスト『大迷宮時代』が開始されます。


―― プレイヤーがロコノア城下街に到達しました。

   これによりワールドクエスト『精霊樹の復活』が進行します。

   これによりエピッククエスト『大迷宮時代』が進行します。


「えっ?! 『大迷宮時代』?」

 城壁の門をくぐると同時にワールドアナウンスが流れる。


「は?! 『精霊樹の復活』はともかく『大迷宮時代』? アズ君、何かミッションクリアした?」


「いえ、何もアナウンスはされてませんけど……」

 予想外のクエストが進行していて何がなんだかわからない。


「アズさん……あれ、あれ見てください……」


 前方に大きくそびえ立つ巨木がうっすらと光を放ち……


「え、あれは?」「何だ! 城の樹が光ってる?」「まさか……」

 道行く人々も立ち止まって丘の上の城の大樹を見上げた。


 大樹から光の奔流と共にピンクの桜吹雪が吹き荒れる。


 桜の花びらが舞い散る中、キラキラ光る光の球もふわふわとあちこちで風に揺られていた。


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