これ以上ないほど傷つき妬み、息苦しくなるほど愛され、二人は小説を書く。

才と宝は陰と陽の二人。陰から見る宝は環境も人柄も何もかも恵まれていて、陽から見た才は言葉少なに静かにその才能を研ぎ澄ましているようだった。
お互いがお互いを意識しつつも幼い頃はけして溶け合うことがなかった境界線が、時を経て大人になったある日、再び巡り逢う。社会不適合者の烙印を自分で押して人生のどん底にいた才は、ひょんなことから宝の持ち家で居候を始めた。そして二人は小説を書きながら互いに傷つき、傷つけ合う――。

たしかに最悪な再会だったし、こうして会わなければお互い感じる必要のなかった苦しみもたくさんあった。宝の行き過ぎた献身は、底なし沼でもがいていた才からしてみれば理解の範疇を越えた宇宙人のようである。そして才の精神疾患の泥沼に沈んでいく様子が痛々しく、その描写が生々しいからこそ、読者は宝のアガペーに爪を立てる才を見放すことができない。それはきっと、宝も同じ気持ちだったのではないだろうか。

そうして次のページへどんどん進み、行きつく所まで傷つけ合った二人の勝負の結末に、正反対な二人が衝突しながら同じ目標へ向かって成長するバディ・ブロマンス作品が大好きな私は、心の底から満足したし、安堵した。そこまで夢中にさせてくれた作者様に、改めて感謝を。息苦しくなるほどの暗闇と目を開けられないほどの光を見事に書ききった現代ヒューマンドラマ、おすすめの一作です。

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