生き方を制限された中で、懸命にもがく登場人物達。

 森に支配されていると言っても過言ではない世界。
 集落が深い森で分断されているせいで行き来が困難であり、大半の人間は狭いコミュニティで生活することを余儀なくされています。
 森を唯一歩ける「鳩」と言う職業に就いた者も、自分が生まれた土地へ帰巣本能で導かれるだけなので、集落間を往復するには別の鳩の力が必要となります。

 そんな中で、「一度通った道を必ず記憶する」という能力を持つ主人公・ユミ。
 自由に集落間を移動できる規格外の能力を持つ彼女は、心を通わせた少年との幸せな未来を掴む為に奮闘します。

 こちらの物語を拝読して、上京した頃の自分を思い出しました。
 新潟の田舎で二十代後半まで暮らしていて、狭いコミュニティにうんざりしつつもそこを飛び出す勇気が持てずに、これが普通なんだ、みんな我慢しているんだと自分に言い聞かせて生きていました。
 父の死後に土地を処分して姉が居る東京へ母と共に引っ越したのですが、知らなかった新しい世界に目が開けました。

 都会と田舎、それぞれに良い面と悪い面が有ります。都会に住み続けるのも良し、田舎に帰るのも良しです。両方を知った上での選択ならば。
 片方だけで結論を出すのはもったいないなと思うのです。

 世界を広くするのは自分自身。それを思い出させてくれた作品でした。

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