6、綺麗な射形でも的に中らない? それはよくある誤解ですわ!

 綺麗な射形を意識し、稽古しても的に中たらないと悩むこと、ありませんか? 

 でしたら、ちょっと考えてみてください。

 射形が綺麗じゃなかったら、中てれます? 


「そんなの分かるわけないでしょう!」

「射形が綺麗じゃないから、中たらないんでしょ?」

「汚い射は恥ずかしいんです!」


 ほうほう、でしたら。

 的中率はあったけど、射形を気にするようになり的中率が低下したのか、それとも中てるために射形を気にしているのか。

 ひどく悩む人ってのは後者ですかね、私が出会った人達の場合、だいたいそうでしたから。

 

 それに、「射形は綺麗だけど中たらないよね」って言われたことある人は、社交辞令だったと思ってください。つまり相手を傷つけず、やんわ〜りと褒める言葉。


 するとね。


「そ、そんな酷い事言わないでください!」

「一生懸命、弓道教本にそって稽古してるんです!」


 ……ん?

 悩ませる犯人は弓道教本、やっぱりアナタですね!


 問→射形は綺麗だけど、的に中たらないと言われます。

 解→美しさを求めてるならば、的中は無視しよう。


『正射必中』という言葉を信仰するならば、射に美しさを求めて稽古する。的中に結びつくまでの美しさに到達すれば、勝手に中たります。

 ──しかし──。

『正射必中』という言葉を無視するならば、的中を求めて稽古し、それをベースに見た目を改善していくと、なんかそれっぽい見た目の射になります。


 そもそも射形が綺麗だからといって、狙ったところに矢が飛ぶかどうかは別なんですよ。

 試しに自分の狙いを誰かに視てもらい、狙ったところに矢が飛んでいるかどうか確認してもらいましょう。

 的がないところを狙っている可能性もありますよ。


 問→射形は綺麗だけど、的に中たりません。

 解→的中を求めるならば、美しさを捨てよう。


 そもそも射形が綺麗って言葉の範囲が広すぎて、正直何がどうなのか書ききれません。なので、ここでは私が勝手に考えた綺麗な射形を目指して稽古する具体例、すなわち特徴をピックアップして、それを例として記していきますね。

 

 1、弓道教本の射形をコピーしようとする。

 2、弓を引くときの見た目や、会の形だけを意識する。


 ほい、それでは順にいってみましょう。

 もちろん、バリバリの私論です。


□1、弓道教本の射形をコピーしようとする。


 私が思うのは、とりあえずコレ。

 そもそも弓道教本ってのは、的中するための要素もありますけど、私が思う素直な感想としては、『芸術的な射形』なんですよ。つまり、高度な美学が練り込まれていて、的中理論に特化した本ではないんですね。なんだかピ◯ソの芸術みたいな感じ。

 書いてある事が難しすぎて、その本質を理解するための期間が3年程度では時間が足りないんですよ。


 あ、もちろん弓道教本を極めれば「おぉ!」と思うような射形になることは間違いないです。でもね、弓道教本を極めた熟練の弓道家(練士・教士、範士)の人が使う弓って、「竹弓」が多いと思いませんか?


 今時のグラスファイバー弓や、カーボンファイバー弓を使っている熟練の弓道家は、結構レアだと思っているんですね。というか、めっちゃ少ないイメージ。

 だから私はこう考えてます。

 弓道教本を再現しようとするならば、育てた「竹弓」が必要になるのでは?

 となれば、竹弓以外で弓道教本をコピーしようとしても、ちょっと無理があるよね。


「え……言いきっちゃっていいんですか!?」

「ちょっと、なんてこと言うんですか!?」


 いいんですよ、ただの私論なので。

 私が言いたいのは、現代には競技向けに適した和弓がある。

 その弓に適した射形ってのは、弓道教本が全てじゃないよってことです。


 基本を学ぼうとするなら、本屋に行くと隠れキャラみたいな感じで売っている、「弓道上達の方法」みたいな本を読むことをオススメしますよ。特に写真が多いやつ。

 そっちのほうが小難しく書いてないので、分かりやすいんですよ。

 ちなみに現役の頃、私は読んでなかったですけどね。理由は興味がなかったから。

 ……え、じゃあオススメするなって?

 つまり最終的には「自分で弓道を研究すること」、これが的中への近道だと私は考えてます。

 

□2、弓を引くときの見た目や、会の形だけを意識する。


 これもね、ホント多いんですよ。

 例えば押手も馬手も均等の力で引き分けながら会に入る。これは良しとしても、射手のタイプによっては力を加えるタイミングが変わってくると思うんですよ。


「え、射手のタイプ?」

「流派の違いじゃなくて?」


 ほい、なので今回は流派を無視します。

 あくまで技術的な部分のみだけに絞ります。


 まずはどのタイプかチェックしてみましょう。細かく書くと文字数が爆発するので、極端かつ超ザックリですけどね。 

 ではここで、エアー弓道をしてちょっと考えてみてください。

 鏡を見るのは最初と最後だけですよ。


①最初→弓を引き、会に入った形をつくります。

 ここで、引き尺はちゃんといつも通りであることを確認します(エアー弓道だと、だいたい引き尺が大きいので)。

 そこから逆再生する感じで、均等な力と速度で引き分けをしながら、打起しの動作に戻ります。

 そしてここから。

 もう一度引き分ける動作をして、会に入ります。

②最後→ここで、一番初めとまったく同じ形になってますか?


 同じ形になる人は、主に関節を使用し、骨を使った弓の引き方をする人である可能性が高いので、腕力をあまり使わない、「テクニックタイプの射手」です。

 逆に、同じ形にならないのであれば、腕力も使って弓を引く、「パワータイプの射手」、その可能性が高いです。

 とりあえず先に進みます。

 

 その差は主に骨や関節のみを使用し、会に入る引き方なのか、腕力も使用して会に入る引き方なのか、大きく分けると2パターンあるんですね。

 射手のタイプが違うと、関節の使い方が変化することから、力を加えるタイミングが変わってくるんですね。

〝これは流派の違いではなく中てるための引き方、その違いによるものです〟

 あ、力を抜いて弓を引けと言われても、それは無理ですからね。要するに、無駄な箇所に不必要な力を加えるなって意味だと思ってください。


 ここで掘り下げます、例えてみますね。


『テクニックタイプの射手』


 打起しの時点で、左右の肘を両肩幅のラインに近づけておき、主に背筋を開くことで弓を下に降ろします。会に入ってから、左右に伸び合いをする際にジワジワと力を加え、矢の筋に張る力を加えつつ、定めたベクトル方向にスパンッ、離れを出します。

 極端にいえば、会に入ったあとに〝馬手に張る力〟を加えていくタイプです。

 なので、会が長くなる傾向があります。


『パワータイプの射手』


 打起しから引き分けの間で、背筋や関節を使用しながら弓を引きます。会に入った時点で、矢の筋に張る力は加わっているので、左右の伸び合いでは定めた方向に弓を押し引きして、スパンッと離れを出します。

 極端にいえば、会に入る前から〝馬手に張る力〟を加えていくタイプです。

 なので、引き尺が長くなる傾向があります。


 ──ですので、この射手のタイプによる違いから。


「キレイに引く=会で左右に押し引きする力を効率良く伝える準備」とした場合、これが甘いと離れの瞬間に「不必要な動作」を引き起こす要因の一つになりやすいんですね。


「馬手には張りをもたせろ!」、とか聞いたことありませんか?

 馬手側に、「張りをもたせる=離れの直前に余計な動作を抑止する」などの意味もあるんですよ。


 それと、押手と馬手のパワーバランスを均一にして伸び合うのも、メリットがあるからなんです。

 これは運動会の綱引きで例えると〝左右の力がつり合う〟ことでロープが静止するとの同じ原理どす。水平方向に加わる張力が強ければ強いほど、離れの運動量にプラスαされます。弓力も関係しますけど、それがキレのある離れ、つまり仕組みです。 

 だから離れを意識しただけでは、キレる動きにはならないんですね。


 このテクニックタイプ、パワータイプはそれぞれ違う技術を軸に、的中に結び付ける違いがありますから、変に混ぜるとワケワカランになります。

 極端ですけどね。私はいつも、こんな事を考えながら試合を観察してましたわ。そして大学でテクニックタイプの射手(凄腕)に出会い、確信しました。

 ま、自己満足ですけど。


 ──と、いうことで。


 この違いから、均一に弓を押し引きする力は、必ずしも最初から最後まで一定である必要はないんですね。弓を引く仮定も大事ですけど、どちらかといえば会に入った後が重要なんですよ。


 もちろん練度や射形による違いもありますし、結局のところ弓を引く(主に引き分け)ってのは会に入るまでの仮定、通過点です。

 綺麗に引けたらオッケイではなく、まだその先があります。


 会に入ったあと、弓を押し引きするために必要な力の伝達経路が、一本の道として完成されているかどうかです。弓を引く場合の人の体は、「肩→肘→手」の順に力を伝達していきますから、各関節がちゃんと道として機能しているかもポイントなんですね。

 これがガタガタだと、弓力の割には矢勢がないパターンもしばしば見受けられますね。それは綺麗な射形を意識している人ほど、矢に勢いがないかな。

 ちなみに、これは個人的な感想です。

 

 あ、そうそう。


 右肘を両肩幅の水平ラインから背中側におさめていたり、両肩幅の水平ラインよりも下に肘をおさめている選手を、試合とかで見たことありませんか?

 あれは理屈上、矢筋に真っ直ぐと離れを出すために、その位置のほうが都合が良いからなんですよ。試しにエアー弓道で離れを逆再生してみて、右肘の動かし方を意識してみれば分かると思います。

 つまるところ、アレはどのタイプの射手にも共通した、真っ直ぐと離れを出すための、一つの形です。

 意外と、知らない人もいますけど。


 だけども、離れのキレが凄くても、残心の時に馬手の形がフニャンとなる、それが綺麗な射形だと思います?

 正直、これは好みによるでしょうね。

 でもその射形は、的中を意識した合理的な技術の一つなんです。

 で、射形はどうであれ、ガンガン的を射抜く選手だったら、この人めっちゃ上手いな〜と思いますね。

 となれば、奥が深いですね、弓道って☆


 と、いうことで。


【まとめます】

 稽古では綺麗な射形を意識するだけでなく、狙った場所に矢が飛ぶために必要な技術を稽古する。弓道教本に沿う射形は難易度が高いため、実際に自分が魅力的だと思うお手本の射手を探し、真似してみること。


 教科書を真似るよりも、実際に観察した選手の射形を真似るほうが、再現しやすいと思います。

 そもそも、「射形が綺麗」ってホントに曖昧です。

 だからこそ、お手本となる射手を見つけてコピーしようと稽古するのがオススメです。

 ガンガン的を射抜く人が持つ、技術のヒントは見て盗む(直接聞いてもいいですしね)。どう真似れば再現出来るのか、そこにも弓道を研究する要素が詰まってますから。

 ただし、引き尺が大きい射形はそれ相応の矢数をかけて稽古しないと、スタミナ切れしやすいですからね。そこは要注意ですよ。


 的をガンガン射抜き、あの人の射形をお手本にしよう。

 そんな風に思ってもらえるような意識で、稽古してみてくださいね。


 たとえ射形が綺麗でなくとも、お手本にしようとする人にとっては誰でもない一つの理想、その射形であることには間違いありませんから!

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弓道エッセイ、弓道知識と技術理論 もっこす @gasuya02

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