さまざまな出会いや葛藤を経て「自分の歌」が歌えるまで

R&Bシンガーの夢を追う若者を飾らず等身大に描いた青春ドラマ。名曲に彩られた人間味のあるストーリー展開と、ヒロイン沙羅の瑞々しくしなやかな感性が魅力的です。
浅黒い肌を持つ自分の出生と、裕福ではない家庭環境、その中で夢を追うことへの葛藤、そしてまだスタートラインに立ったばかりのシンガーとしての不安。沙羅は色んな現実に直面しながらも、自分のやり方で歌と向き合っていきます。

沙羅をとりまく登場人物も個性的です。音楽業界だけにひと癖もふた癖もある人が多いのですが、それぞれの人生が多面的に描かれることで、親子や男女など、人間同士の複雑な心の機敏が感じられます。
そしてなんといっても随所にちりばめられたR&Bやジャズのナンバー。
タイトルだけで知らなかった曲の背景や歌詞が物語の中にさりげなく取り込まれているのも読者にとっては嬉しいですが、沙羅や登場人物の心を映し出すような選曲にも筆者のセンスと愛情を感じます。

色んなミュージシャンに歌い継がれてきた曲へのリスペクトと、それを自分のものにすることの難しさ。
人や歌との出会いから、ときに悩んだり、刺激を受けたりして成長していく沙羅が「自分の歌」を歌えるまで。シンガーとしてこれから大きく広がっていきそうな沙羅の可能性に期待しています。

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