あなたが昨日スーパーで見かけたバナナは、実は遺伝子的に均一な品種である。種子が見えない(種が完全に存在しないわけではない)これらのバナナは株分けによって増殖し、全ての木は同じ遺伝子を持っている。遺伝的多様性の欠如は、生物としての脆弱性につながる。事実、1960年代にパナマ病によって旧来のバナナ品種のほとんどが壊滅した。
その憐れなバナナの名はGros Michelといい、今日の市場で95%を占めるCavendish種よりも甘味と香りが優れていた。しかし、病気に対する耐性がないために絶滅の危機に瀕した。Cavendish種も同様の運命に直面している可能性がある。あなたが明日も同じバナナを食べられる保証はないのだ。
人類とバナナとの関係は古く、旧約聖書の禁断の果実が実はバナナであったとする説もある。エデンの園があったとされるペルシャ湾岸では林檎は育たないが、バナナは可能性がある。また、コーランでは禁断の果実はイチジクかバナナと解釈されている。バナナは人類の歴史と密接に関連している。
もちろん、本作品を読む上でバナナについての予備知識は必須ではない。しかし、主人公と絶滅危惧種であるバナナとの間には共通の素性があり、彼がバナナに対してある種の感情を重ね合わせていることは明らかだ。彼は種の存続を担う重要な役割として描かれていて、バナナは人類の滅びと再生の象徴として見ることができる。
十三不塔さんの作品を初めて拝読しました。
カクヨムでこんな本格的なSF小説を読めるとは、うれしい驚きです。
人間の二大欲望、眠ることと食べることがテクノロジーによって歪んだ未来像に結実し、不思議な美しさと切なさを感じさせてくれる作品です。
極小ドローンとのコミュニケーションが面白い。
むかし「燃える昆虫軍団」というパニック映画で、知能を持ったゴキブリが並んで文字を形作るシーンがあったのを思い出しました。
もしかしたら、この極小ドローンたちが移眠した人間たちの行った先だったのでは?と思ったりしました。
だから、最後は主人公もドローンになったのでは…と。
暗い美しさのある、悪夢にも似た好編です。