物語に気をつけろ

何が虚構で何が事実なのか。
始めのうちは語り手それぞれの思考の断片が語られれば語られるほどに断絶を見せつける構成です。
巻き込まれた「アオシマ」のみならず、読んでいる私も「Y先生」はあくまで「我那覇」の妄想の中にしか存在しないのではないか、そんな気になってきます。
後半は急転直下。
物語が広く世に出たことで起きる悲劇とその背景が徐々に語られます。
現実に存在する様々な情報災害と絡めているだけに、関係者の心情や信念、様々な事情が生々しく描かれています。
淡々とした筆致が事態の深刻さをかえって際立たせ、陰謀論などの「物語」に人生を狂わされた人々の苦難が読者の胸に迫ることでしょう。

たしかにこの一作が世に出たことで、劇的に何かが変わることはないかもしれません。
しかし、読んだ人の心に確実に何かを残し、それがいずれは別の変化を呼ぶものだと信じます。

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