1-1【Children called...】


 

 神父が崩れかけた教会に辿り着いた日から、幾ばくかの時が過ぎると、夜通し鳴っていたトンカチの音が鳴り止んだ。

 

 司祭平服キャソックを脇に畳み、裸になった神父の上半身には幾重にも汗が滴っている。


 薄汚れた布切れで汗を拭うと、一緒にこそぎ落とされた汚れの下に無数の傷跡が見え隠れした。


 神父はそれを隠すかのように、急いで司祭平服を身に纏う。



 ……なんとか形にはなっただろうか……



 ツギハギだらけの不格好な会堂を見上げて神父は思う。


 仮にどれだけ形を美しく仕上げたとて、この場所の本質は立派な建物ではないということを、神父は嫌というほど知っていた。

 


 ……ここに集う人々こそが……

 


 神父は手を合わせて屋根の上の十字架を見上げる。


 

 ……神よ。ここに人々を……集めてください……

 

 

 そう祈る背後から、視線を感じて神父は振り返った。

 

 見ると薄汚れたナリをした二人の子供の姿がある。

 

 二人は神父と目が合うなり怯えた顔で走り去った。

 

「お待ちなさい……!!」

 

 小さな身体ですばしっこく瓦礫の間を縫っていく子供の影を、神父は必死に追いかけた。

 

 二人はどんどん人気ひとけの無い瓦礫の奥へと逃げていく。

 

「逃げる必要はありません……!! あの場所には、あなた達のような人が必要なのです……!!」

 

 走りながら必死に説得したが聞く耳を持たずに逃げる子供に、神父は思う。

 


 ……無理もない……


 

 この世界で子供とは、つまり、獲物なのだ。

 

 柔らかい肉、労働力、その呼び方は何だって構いはしない。

 

 力で捻じ伏せ得る弱者は、恰好の獲物で、彼らはここまで、そんな世界をようやっと生き延びてきたのだ。

 

 上辺だけの言葉は、もはや意味を成さず、信じられるものは自分以外にない世界。


 

 ……神よ……

 

 ……このような世界であなたは何処におられるのか……

 


 神父はそんな嘆きじみた祈りを噛み締めながら、必死に子供の後を追った。

 

 やがて二人の子供は円形の広場の真ん中にたどり着くと、観念したのか立ち止まって神父の方を振り向いた。

 

「わたしは神父です。神に仕える神父。あなたがたは世界の希望です……!! どうかわたしに手助けをさせてください……」

 


 そう言って手を差し伸べながら、ゆっくりと二人に近づく神父の耳に、ゲラゲラ、ゲラゲラと、邪悪な嗤い声が響いた。

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