1-3【DeVils InsiDe】
赤黒い空から褐色の雨が滴り落ちる。
それは天を仰ぐ神父の頬を激しく打って、戦いの痕跡を洗い流していってしまう。
……神よ。わたしは……
その時、神父の裾に小さな手が触れた。
見ると神父が追ってきた子ども達が足元に立っている。
「みんなしんじゃったの?」
無垢な声だった。
それがかえって神父の心を酷く波立たせる。
……わたしが殺した……
ざわざわと波立った心は、やがて大時化の嵐に変わり、山積みになった遺体達の目が一様に自分を睨んでいるかのような幻幻幻覚に襲われれれる。
罪責感が心臓の上辺り、肺大動脈の内側を掻きむしって呼吸が上手く出来なくなったが、それでも神父は少女ににっこりと微笑んだ。
「もう大丈夫です……さあ。ここを離れましょう」
「おじさんがころしたの?」
今度は少年が口を開いた。
酷い耳鳴りがして、思わず神父は顔を顰める。
きいいぃん……いん……いん……いん……いん
ころ、ころ、、ころしたのぉん、のん、のん、おん、おん、おん、怨、怨、怨?
「ぼく、おなかすいた……」
「あたしも……」
そう言って子ども達は死体の山へと駆けていく。
……いけない……
神父は叫ぼうとしたが、酷い目眩に苛まれて、言葉を発することが出来なかった。
ぐじゅ……くちゅくちゅ……
じゅぶっ……がりがり
ガリガリガリガリガリガリガリガリ
ガリガリガリガリガリガリガリガリ
ガリガリガリガリガリガリガリガリ
ガリガリガリガリガリガリガリガリ
「痛ぅっ……!?」
見ると少女と少年が、邪悪な笑みを浮かべて神父の両脛に齧りついていた。
「あれ? 目が覚めちゃった?」
「でも、人殺しなんだから、食べられても文句は無いはずよ?」
「子供を救いたいんだろ?」
「あたし達はお腹がペコペコなの」
「喰われろ……」
神父は幼い子供の成りをした二体の悪魔に銃口を向けた。
……本当は気付いていた……
……霊の目で見た時から理解っていた……
……ただ、信じたくなかった……
「下がれ……
そう言って引き金を引くと、二体はけたたましい笑い声を上げて、その場を飛び立った。
空中からこちらを見つめるのは、薄気味悪い羽を生やした、皺だらけの二体の悪魔の姿だった。
むりむりと悪魔の腹が蠢いて、そこに子供の顔が現れ言う。
「しんぷさま、たすけて、ころさないで……」
「そうよ……あたしをうつきなの!?」
神父は唇を噛み締め足の傷に手を当てて祈った。
「主よ……癒やしの御手を伸ばし、この傷を清めてください……」
そう祈るや、神父の傷口から蒸気が立ちのぼり、傷が癒やされた。
それを見た二体の悪魔から笑みが消える。
「偽善者のエクソシスト……人殺しのエクソシスト……裁きをなさぬ神に代わり、我々が裁きを下してやろう……」
「十字架に磔にして……少しずつ肉を削ぎ落とし……それを貴様に喰わせてやろう……骨になったら復活させて……永遠にそれを繰り返してやろう……」
神父は銀縁眼鏡を手に取り、レンズを拭いてかけ直すと、悪魔を睨みつけて言った。
「黙れ……偽りと不法の者共……告発する者共よ……裁かれるべきは貴様たちだ……」
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