1-2【Bullets Don't Be Depletion】
円形広場の周囲には、瓦礫の山がうず高く積み上げられている。
よくよくと目を凝らせば、そこには人の意図が、ぞっとするような悪意が、籠められていることに、神父も気づくことが出来たかも知れない。
わざと隙間を埋めるように張られた錆だらけの有刺鉄線や、死角に空いた穴の底に敷き詰められた鋭く尖ったパイプ……
そのどれもが、一見すると逃げ出しやすく見える箇所に、巧妙に仕組まれた罠だった。
ぞろり、ぞろりと、残酷な笑みを浮かべた者達が、瓦礫の上に姿を現す。
彼らの手には錆びと血で汚れた、切れ味の悪そうな刃物があり、また別の者の手には鎖や鞭のような拘束具が握られている。
……それらが意味することは一つ……
……捕まれば可能な限り生きながらえさせられ、新鮮な肉を削ぎ落とされ続ける……
「なんと愚かな……」
神父は絶望にも似た憐れみの声を絞り出して言った。
それを聞いた住人達は、再びゲラゲラと嗤い声をあげる。
神父はそんな彼らに目を細めつつ、小さな声で祈って言った。
「主よ……わたしの霊の目をお開きください……」
祈りがまだ終わらぬうちに、神父の霊の目が開かれた。
すると先程まで見ていた世界は色を失い、まったくの灰の世界が広がっていく。
そこに映える色はただ一つ。血のように緋い人々の魂だった。
その赤い魂を取り巻くように、黒い鎖や、青白い炎が人々の身体を覆っている。
神父は目を閉じ、大きく深呼吸すると、叫んだ……。
「悔い改めよ……!! 人殺しの罪、人喰いの罪を悔い改めて神に立ち返れ……!!」
円形広場にどぉっ……と嗤いが起きると、瓦礫の上の住人達は奇声をあげながら、一斉に神父目掛けて殺到していった。
神父は迫りくる人食い人種達の前で、
「主よ。わたしの弾丸はあと二発しか残されていません。しかしわたしはあなたを信頼します。エリヤを助けた
そう言って神父は立ち上がり、胸のホルスターからリボルバーを抜いた。
「今宣言する……!! 我が弾丸は悪を滅ぼし尽くすまで、枯れることが無い……と。父子聖霊の名において……!!」
神父は丸い銀縁眼鏡を左手で押さえ、素早くしゃがみこんだ。
すると背後に迫った男の振り抜いた棍棒が、先程まで神父の頭があった場所を勢いよく通過する。
神父は姿勢を低くしたまま銃口を背後に迫った男に向け、引き金を引いた。
棍棒を手に持った若い男の頭が、銃声と共に血飛沫を上げて吹き飛び、辺りに絶叫が木霊する。
開かれた神父の霊の目には、着弾と同時に悪魔の身体が爆散して、男の魂から引き剥がされるのが見えた。
「死にたくなければ退きなさい……!! 悔い改めるのです……!!」
「殺れ……」「喰わせろ」「滅ぼせ!!」「生き地獄だ」「殺してくれ」「偽善者……!!」「人殺し」「美味い肉だ」「久々の獲物」「殺せ」「殺せ」「殺せ!!」
神父の願いも虚しく、人喰い共は口々に罵声を浴びせながら、神父に襲いかかっていった。
リボルバーを見た彼らは、弾切れが早いと踏んで、次々と神父に押し寄せたが、神の祝福が宿った神父の弾丸が枯れることは無かった。
いつしか神父の周りには、悪魔に憑かれた者達の亡骸が、円形にうず高く積み上がるのだった。
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