1-5【Left Behind】
崩れるように銃口を下げた神父の目から、聖なる輝きが消えていった。
その目に映るのは、目を覆いたくなるような惨劇の跡。
あらぬ方向に手足を曲げて、寄り固まった死体たちと、首から上を失った二つの小さな亡骸。
血と硝煙の臭いだけが、そこに香る全てであり、生命力を失くした
……終わった……
神父は力なく項垂れる。
……わたしの成したことは、またイタズラに命を奪うだけだった……
悪魔との戦場で嫌というほど目にしてきた光景が、再び眼前に広がっている。
それを見た神父の中に、再び虚無と失望の波が襲いかかってきた時だった。
背後でがさり……と物音がした。
神父は再び銃を握りしめ、物音の方に銃口を向けた。
「うたないで……」
瓦礫の隙間に隠れるようにして、一人の少年がこちらを覗いている。
「でられないの……」
見ると少年は隠れているのではなく瓦礫の檻に幽閉されているようだった。
「捕まっていたんですか……?」
その言葉に少年は小さく頷いた。
這うように少年の方に近づいた神父は、そこで息を飲む。
小さな少年の身体には、至るところに抉ったような傷跡があり、手足の健は切られていた。
やせ細った少年は下着しか身に着けておらず、その見えない部分さえ、無事な保証はない。
神父は手が傷だらけになるのも構わず、有刺鉄線を引き剥がし、少年を抱き上げた。
「赦してください……わたしは自分以外に癒やしの奇蹟を起こすことが出来ません……」
神父はそう言って少年を抱きしめながら身体を震わせ涙を流した。
「おじさん……なかないで……」
少年は小さな声でそう言うと、だらりと垂れて動かぬ手で、神父の頭を優しく撫でたのだった。
……主よ……
……主よ……
……まだ、まだ人の中に……
……優しさが残っていました……
……どうかわたしに……
……このような者達を守る力を与えてください……
神父が無言で祈りを捧げる中、もごもごと死体達が脈打ち始めたことに少年は気づき、神父を撫でる手を止めた。
神父もそのことに気が付き、少年を抱きかかえたまま、ゆっくりと背後を振り返る。
「我等の頭をよくも……」
「貴様はただでは殺さない……」
「貴様の肉を、生きたままそのガキに喰わせて、ゆっくりゆっくりと殺してやる……」
二体の悪魔の腹には口唇裂に侵された巨大な口がぱっくりと開き、そこから心臓が凍るような地獄の聲を吐き出した。
二体は腹に空いた口で互いを貪り喰い合った。
長い舌を伸ばし、激しく絡み合うその様は、男女の交わりのような淫靡さと、共食いの悍ましさが同居する、身の毛のよだつものだった。
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