Case × 祓魔師【The Beginning】

深川我無@「邪祓師の腹痛さん」書籍化!

第一章【The Outcast From Paradise】

1-0【The Outcast From Paradise】


 

 

 ぶぶぶ……ぶぶぶ……と何処からともなく沸き立ってくる、おびただしい数の蠅の群れが、崩れた街の至る所にひしめき合っている。


 蠅共は無遠慮に死体にたかっては、練乳色くりぃむいろをした無数の卵を産み付けて、再び屍肉に口吻を伸ばす。

 

 散乱するむくろを弔う者などは、ただの一人として見受けられない。

 

 この世を覆った七年間の地獄は、巨悪が過ぎ去ってもなお、地上に居座って、むずむず、じゅくじゅくと、人の心身を蝕むことをやめなかった。

 


 ……どうやら楽園を追放されたのは堕天使だけではないらしい……

 

 

 襤褸襤褸ぼろぼろ司祭平服キャソックを纏った神父は、小さな丸い銀縁眼鏡の奥から、屍肉をガツガツと貪る痩せこけた人々を見つめて思った。


 神父の手は自然と、胸のホルスターに刺さった、リボルバーに添えられる。


 しかしどうやら、屍肉を貪る人々が、こちらに興味を示す様子は無かった。



 束の間の安堵とともに、その場を足早に離れ、ガラガラと瓦礫を乗り越えながら、神父は道無き道を進んだ。


 

 

 ……楽園を追われたのは我々人間も同じだ……


 

 

 火災の煙がほうぼうから立ちのぼり、赤茶けてしまった空から、灰で濁った汚い雨がポツリと神父の頬に堕ちた。

 



 ……主よ。今こそ我々人間には、信仰と、希望が必要です。どうか憐れみを注いでください……

 



 そう祈って、あてもなく彷徨い歩いた末に、神父は一軒の崩れかけの廃墟に辿り着いた。

 

 それを見た神父の目から、思わず涙が溢れだす。

 

 崩れかけた家屋の屋根には、真っ白な十字架が、高々と掲げられていた。

 

 

 うおおおおおおおおお……

 

 うおおおおおおおお……

 

 うおおおおお……

 


 神父はその場に跪き、声がれるほど泣き叫んだ。

 

 やがて涙も枯れ果てると、神父はよろよろと立ち上がり、暗い会堂へと入っていく。

 

 ……主よ……


 ……主よ……


 ……わたしは、この地に再び希望を打ち立ててみせます……

 

 ……どうか、わたしに力を……

 


 †

 


 これはまだ、アポカリプス戦争の傷跡から立ち直る以前、暗闇の日本で、光を信じた一人の神父の物語……

 

  Case × 祓魔師 【The beginning】

  【開幕】

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