1-7【It Will Be Called】


 緊張の糸が切れたのか、少年はいつの間にか神父の背中で眠ってしまった。

 

 胸の痛みに顔を歪めながらも、神父は少年を背負い、粛々と瓦礫の山を越えていく。

 

 ようやっとおんぼろ教会の屋根に佇む十字架が見えてくると、教会の前に停まった一台の黒い車が目に留まった。

 

 すると車の扉が開き、中から司祭服に身を包み、ストラを首に巻いた、身なりのいい男が降りてくる。

 

「久しぶりだね。……!!」

 

「将軍……!? いったいなぜこんなところに!?」

 

 男は顔の前で両手を振って否定した。

 

「将軍はよしてくれ。今は東方聖教会を取りまとめる枢機卿のひとりだ」

 

「東方聖教会?」

 

「そうだ。バチカンの命により各国には聖教会が配置されることになった」


 そう言って将軍と呼ばれた男は筒状に丸めた羊皮紙パピルスを開いて言った。


「今日来たのは他でもない。君もそこで司祭として共に働かないか……? この国を、世界を立て直す為に……!!」



 一瞬の沈黙の後、神父は口を開いた。

 

「ありがたいお話ですが、お断りさせていただきます」

 

「なぜだ? 君ほどの男がどうして!?」

 

「今、ここに住む人々は、暗闇と瓦礫の中を彷徨っています。わたしの行くべき道は、そんな彼らと共にある」

 

「我々と共に神の大いなる再建に携われば、億の人々を救うことが出来るかもしれないのだぞ……?」

 

「そのとおりです。しかし……わたしはもう、千の人々を見殺しにしたくないのです……!」

 

 その言葉に男は嘆息すると、名刺を取り出し神父に手渡し去っていった。

 

「何か力になれることがあれば言ってくれ。神の祝福があらんことを……」

 

 こうして神父は少年を連れてオンボロの教会へと帰ってきた。


 やがてこの教会は人々からと呼ばれるようになる。


 しかしそれは、また別の物語で。




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Case × 祓魔師【The Beginning】 深川我無@「邪祓師の腹痛さん」書籍化! @mumusha

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