与えた罪は、愛の返答

 まず、一万文字マイナス一文字で構成される本作、普通であれば物語は収束していくものです。
 ところが、話数が進むほどに、どんな帰着をするのかまったく想像できなくなるという不思議に体験を得られます。

 純愛、悲恋、裏切り、横恋慕、逃避行、断罪。
 様々なテーマを想起させるにも関わらず、タグはまったく役に立ちません。
 兄や扉がどうなってしまったのか、巧妙なミスリードに、先を読み進めるための罠ではないかと勘繰るほどです。

 そうして約一万文字後に訪れたのは驚きです。

 物語は、広げられた風呂敷もきちんと畳まれます。
 そこに謎も誤謬も存在していません。

 ただ一つ残ったものは「こんな愛があるのか」という驚きだけでした。

 私はもちろん、いい大人なので、世の中にあるありとあらゆる愛に精通している自負があります。
※自己評価なのでクレームは受付けていません。

 にも関わらず、この愛の告白と、この答えのセットは私の知識と、経験と、想像の中には存在していませんでした。
 自身の未熟さと、これを創造できる作者の感性に感服する以外の反応はありませんでした。

 愛した人と結ばれるのが幸せなのか?
 愛してくれる人と結ばれるのが幸せなのか?
 立場によって愛する人を選ぶ必要があるのか?
 そもそも愛と幸せはイコールで結ばれるものなのだろうか。

 同時に、そんないくつもの疑問が波のように押し寄せてくるのです。

 そして考えます。
 伝えてはいけない愛は『想うだけでいること』、『伝えてしまうこと』、どちらが幸せで罪深いことなのだろうと。
 咎人でもある「英雄」になった騎士も、私と同様に、その問いを生涯背負い続けるのでしょう。