最終話 これが俺たちの禊だ!!!


 1週間後。

 ついに来てしまった、悪夢の公式生配信日。

 用意されたステージには司会者、俺とくりむ、他にもゲストとして招かれたゲーム実況者が数名。俺やスタッフも含めて全員、心を完全に殺した笑顔になっているのは言うまでもない。

 そして中央には、この悪魔のクソゲーを作った張本人であるPプロデューサーが、でっぷりとした巨体を揺らしながら堂々と居座っておられる。こちらは何故か、心からの笑顔で。


 さらに配信前から、視聴者のコメントが画面上に溢れていたが――

 そのどれもが、「クソゲー」「配信やめろ」「詐欺師ども」「Pは×ね」「シリーズの破壊神」「典型的なんほゲー」などというろくでもないワードばかり。そりゃあんなクソゲー生み出してれば当然だろうが。

 そんな負のワード真っ当なご意見の数々を、次々に光の速さでブロックしていく公式スタッフたち。お仕事お疲れ様ですとしか言えん。

 結果、配信直前の時点で、普通に画面に流れるコメントは「くりむ可愛い」だの「里見がんばれー!」だの、俺たちゲストへの応援だらけになってしまった。ゲーム内容に関するコメントはほぼ皆無に……



 そして開始された生配信。

 ゲームのPVがド派手に流れてくる。PVだけはやたら良く、バトルも迫力たっぷり、ムービーも美麗、ヒロインもメッチャ可愛い。

 そのバトルは操作ミスの嵐だし、そのムービーはフリーズするし、そのヒロイン消えるけどな。


 PVが終わった後、さらにPからの挨拶が。

 腹肉とヒゲとグラサンを揺らしながら、ご満悦の表情だ。視聴者への型どおりの挨拶を済ませた後、Pは――


「いやぁ、このゲームで何がオススメってやはり、ドロシーなんスよねぇ~!

 声優さんの演技がとても良くて、ボクは惚れぬいてしまいまして!」


 思わずギリっと奥歯を噛みしめる俺。ドロシーとは勿論、聖女ヒロインを押しのけて後半のヒロインと化した例の女術師だ。


「あまりにも声優さんが良すぎて、ドロシーの出番少しでも増やしてくれって、シナリオ班にもバトル班にもムービー班にも無理言いまくったんですよねぇ~

 それでも彼女の可愛いプリズムフォームがムービーで見られて、感無量です! 本来ヒロインちゃんが着る予定だったんですけどねw」



 お 前 か ぁ あ あ ぁ!!!



 ヤベ、噛みしめすぎて俺の奥歯全部割れそう。

 沈静化していたコメント欄も、Pの発言によって再び荒れかかっている。スタッフのブロックも間に合わないレベルに。

 だがその時、くりむの様子がおかしくなり始めた。


「あ……ぐ……

 こ、こ、この、っ、ク……!!」


 いつもは背中で可愛く揺れている小悪魔の羽が、何故か巨大な漆黒の十枚の翼に変化。今にもファン〇ル撃ちそう……

 そうとは全く気付かず、さらなる萌え語りを続行するPクソ悪魔

 くりむはメンヘラキャラで売ってはいるものの、それでも肝心なところではこれ以上ないほどきちんと結果を出すし、公私混同は決してしないタイプでもある。つまりVtuberとして必須の鋼メンタルは十分持ち合わせている。

 それでも……あぁ、駄目押しの如きPの萌え駄目語りについにブチ切れてしまったか。

 駄目だくりむ!! それ以上は!!!



 だが、俺が慌てて彼女のサポートに入りかけたその時――



 バチバチバチっ。

「う、うぎゃああぁあぁあ!!?」



 この世のものとも思えぬ悲鳴を上げて、バッタリ倒れるくりむ。

 あぁ……ユキナオの仕込んだアレが炸裂してしまったか。



 ――お二人が口を滑らせかけたら、僕が電撃を放ちますので。



 そう。事前にスタッフとして忍び込んだ彼が、あらかじめ俺たち二人の身体に電流ビリビリ装置を仕込んでいたというわけである。

 どちらかが少しでも怪しい言動や行動を見せたら、電撃が炸裂する仕組みだ。

 本来はPに食らわせたいしユキナオもそう思っているだろうが、こればかりは仕方がない。

 俺たちには仲間100人の命がかかっている!


「ぐぎ、ぐ、ああぁあぁぁ!!」


 可愛い女子Vtuberらしからぬ呻きをあげながら、床で悶え苦しむくりむ。

 勿論周囲は何事かと騒ぎになりかけたが、俺は咄嗟に立ち上がった。

 こんなトラブルは普段から慣れっこ、ナメるなよ。


「えー、実は僕らの身体には、今から行なうミニゲーム用の電流ビリビリ装置が仕込まれておりましてねぇ~

 すみませぇん、暴発しちゃったみたいですねぇ~」


 そう言いながらくりむの手を取り、立たせようとする俺。

 しかしその瞬間、彼女の手を通じて俺にも電撃が走った!


「ぎ、ぎあぁぁぁぁあ!? 何で俺までぇ!!?」


 あまりの痛みに絶叫しか出来ない俺。

 聞こえてきたのは、裏で俺たち3人だけのデスコードを繋いでいるユキナオの声。


《視聴者がウケてます。絶好の撮れ高だ、このまま電撃を受け続けてください、お二人とも!》

「な、な、なん……!?」

《分かるでしょう、お二人とも。これは全視聴者に対する禊です。

 コメントを見てください。メッチャウケてますよ!》


 その言葉通り、コメント欄は大荒れから大盛り上がりに。

『悲鳴助かる』『絶叫可愛い!!』『切り抜き決定』『くりむ頑張れぇええ!』『自ら電撃受けに行く里見カッケェ!!』

 などなど……


 そうだ。俺たちは奇しくも、クソゲーと分かっているこのクソゲーを、宣伝してしまっている側だ。形はどうあれ、視聴者にクソゲーを押し付ける側だ。

 ならば――禊は、受けねばならん!


「くりむ。お前だけを犠牲にはしない!!」


 叫びながら俺は、彼女の手をしっかり握り――


「うぎゃあぁあぁぁあぁぁ!!」

「ひぎいぃいいいぃいいい!!」


 出来うる限りの絶叫と悲鳴を上げて悶え苦しみながら、俺たち二人は仲良く延々と床を転げ回った。

 みんな、少しでも楽しんでもらえているだろうか――

 許してくれ。これが俺たちなりの罪滅ぼしだ。





 その後、配信内では俺たちゲストを中心に簡単なミニゲームが開催された。

 このクソゲー内でも非常に珍しい、そこそこまともな1VS1の決闘ゲーム。というかまともに配信でお出しできそうな部分なんてそこぐらいしかない。

 それでも操作性にはやや難があり、俺もくりむも何度もミスって、そのたびに電撃ビリビリを喰らった。ミニゲーム用の罰ゲームと言ってしまった手前、仕方がない。

 俺もくりむも、普段から電撃ビリビリ罰ゲームには慣れっこだ。舐めんじゃねぇ。


 こうして、このクソゲーの生配信は、大盛り上がりのまま幕を閉じた。

 俺とくりむが身体を張った醜態によって。



 ***



 その後、俺たちがどうなったか?

 俺とくりむは、ユキナオとの相談の後――


 何も言わず、過去に発売された伝説の超クソゲーの数々に挑戦した。禊として。

 何故かユキナオまでがそこに参戦。3人揃ってほぼ同時に、90年代・00年代・10年代の代表格たるクソゲーをそれぞれプレイし、苦悶し絶叫し憤怒し悲鳴をあげまくり、結果3人とも大幅にファンを増やした。

 勿論全員、見事にクリアまで完走を遂げて、だ。



 そして、例の世紀末級クソゲーがどうなったかというと――

 別に俺たちがクソゲーだなんて叫びまくる必要など何もなく、殆どのレビュアーが「間違いなく世紀末級のクソゲー」と評した為、売上も世紀末級の大爆死。

 Pはあの公式生配信での贔屓発言が大問題となり、直後にクビになったそうだ。



 あの地獄の公式生配信がもたらした幸運はそれだけではなく。

 同じくゲストとして出演していた個人実況者の方々ともデスコードで繋がり、裏で相当文句をぶちまけ合ったことでいつの間にか心が通じあい、コラボまで出来るようになった。


 しかし一番心が温まったのは何といっても、SNSでのファンの呟きの数々。


「きっと里見さんもくりむちゃんも、分かってても断れなかったんだろうね」

「それでも感情抑えて身体張ってくれて、まさしくエンターテイナーだよ」

「Pのキメぇ発言中断してくれたの、ファインプレーすぎ」


 あの公式生配信についてはもう、俺たちの伝説的ビリビリ姿(と、Pの贔屓発言)しか話題になっていない。

 俺たちは仕事をこなした。ざまぁされるべき奴はされた。

 そしてファンは、ちゃんと理解してくれた。

 ――それが一番、嬉しかった。

 だから今日も俺は張り切って、ゲーム配信を続ける。トップを走るエンターテイナーとしてな!



 Fin

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超期待された超人気ゲーム新作の公開生配信に招待された超人気Vtuberの俺。実はそのゲーム、世紀末級の超クソゲーでした kayako @kayako001

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