第4話 カザリーニ家の顛末

***


 私たちは病室に駆けつけた。

 部屋は出産の壮絶さをそのまま語っている。物が散らかり、妙な生臭さと血の臭いが漂っていた。


 立ち尽くす産婆たちの向こうから、マリエラ嬢は薄っすらと微笑み掛けてきた。


「ああ、修道士さま。見てくださる? わたくし、こんなにも可愛い子を授かったんですのよ……」


 彼女が腕に抱いていたのは。

 腐敗したような灰色の、ぶよぶよとした肉の塊であった。



***


 嗚呼、主よ。

 マリエラ嬢があの晩に契りを交わしてしまった相手は、いったい何者だったのでしょう?


 ルカレッリはこの件を闇に葬った。他ならぬカザリーニ侯爵がそう望んだのだという。


 侯爵はルカレッリが治療に失敗したのだと責め立てたが、娘の姿を見て以来、何も言わなくなってしまった。

 いや、むしろ。

 その灰色の赤子を、孫として大切に育て始めた。

 カザリーニ家がおかしくなってしまったのは、誰の目にも明らかであった。マリエラ嬢だけではない。侯爵も、夫人も、兄妹たちも、皆。新たに家族の一員として加わった灰色の肉の塊を手放しに受け入れたのだ。


 婚約は破棄され、使用人たちが屋敷を離れてからは、カザリーニ家は急速に落ちぶれていった。

 その最期は狂乱の後、全員が死体となって幕を閉じた。その現場はあまりに猟奇的で、発見された死体はどれが誰のものともわからないほど、細かく切断されていたという。


 その中で、唯一。

 マリエラ嬢だけが、元の彼女に近い姿を留めていた。


 彼女は空っぽのおくるみを抱いたまま、ベッドの上に腰掛けていた。その死体からは心臓と薬指だけが失くなっていたという。


 まるで食い千切られたような歯形を残して。


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マリエラ嬢の奇怪な結婚 祇光瞭咲 @zzzzZz

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