第2話観たかった映像。

 私は謎の映像を見る事を諦める事は出来なかった。もう今となっては謎の道と化してしまった道を調べる為、私は地図と資料を調べる事にした。地図で調べているがあの古い神社が載って居なかった。どう言う事なのだろうか? もう古過ぎて載せていないのか。それとも、まやかし風情か何かに巻き込まれたとか? いやいや白昼夢の様な物だったのかも知れない。確かに白の神社や海の神社ならある。余りにも規模が小さ過ぎて載って無いことが有るのかもしれない。資料を探して見ても載っている物は決まっている様だ。これでは見付けようが無い。後、頼みの綱と言えば私の奥さんの妹さんだが、私の頼み事に応じてくれるだろうか? 頼んで置いたけれど忘れてしまっているのでは無いだろうか? あれから、四日間何の音沙汰も無い。早く断ってくれたなら期待もしないで良いのだが、と思って仕舞う自分勝手な私がいる。


「来るんかい。来ないんかい。ハッキリとしてくれ〜。みゆきさん!」


 何て事を言っていると、


「こんにちはー。佐藤さん。いますか?」


 女性の声が玄関の方からして来た。来たー。噂をすれば何とやらと言うが本当に来ちゃった。


「今行きまーす。どうぞどうぞ」


 私は気兼ね無く言い放ってしまった。が、しかし、みゆきさんが私の部屋へと、ズカズカと入って来た。私が家へ入る様に促したのはそうだが、一人暮らしの男の部屋へとズカズカと入って来るか普通。まあ良い。余り、深くは考えない様にしよう。みゆきさんは私を今だにお兄さんと思っていてくれているんだろう。それは嬉しい事なのだから。


「さあ、入って」


 私は安心出来る人間らしく、


「お邪魔しまーす」


 と、言ってみゆきさんはリビングの方へと入って行った。


「そこに座ってて下さい。お茶でも入れますから」


 私は彼女をリビングにあるソファーに座らせた。明るい茶色いソファー。中はシンプルなもので必要な物以外は置いて無い。テーブルとローチェスとその他諸々だ。

 私はそこから離れてお茶を用意しに行く。


「ポトポトポコポコ…………」


 お茶を用意すると私は彼女の元へと向かった。部屋に着くと彼女は落ち着いて資料を眺めていた。私はお茶をテーブルの上に置くと、彼女の向かい合わせに座った。


「さあ、取り敢えず、お茶をどうぞ。今日はわざわざ来てくれてありがとうございます」


 私は彼女にお茶を勧めると自分でもお茶を口にする。


「ごめんなさい。私は私で調べては見たものの。これって物が見つからなかったの。良い話が出来なくてすみません」


 みゆきさんは済まなそうに謝った。


「良いや良いんです。私も見付けられぬままなので、それよりもこうしてわざわざ来てくれた事の方がありがたいのです」


 私は感謝の意を込めて伝えた。


「お役に立てなくてすみません」


 みゆきさんは改めて頭を下げた。私は首を横に振ってもうそれ以上は謝る事をやめさせる様促した。


「元気で過ごしていましたの」


 みゆきさんは聞いて来た。


「ええまあ。彼女が残してくれたラベンダーのお陰でぼちぼちやってますよ」


 私は自然と話が弾んだ。久しぶりの身内的な会話に彼女といた頃を思い出して懐かしい気がした。それから、みゆきさんとは暫く懐かしんで話が盛り上がった。みゆきさんも私を通して彼女の事を思い出して懐かしんで居たのだろう。


「じゃあ、また。佐藤さん。何かあれば、知らせるわ。そっちも知らせて下さい。また会いましょう。さよなら」


「ありがとうございました。さよなら」


 みゆきさんは帰って行った。私は最後に現地を訪れて調べたら、見切りをつけて帰って来ようと思った。決着を着けるんだ。終わりにしよう。


 私は現地に行って、聞き込みを始める。


「すみません。この辺に細い道が有りませんでしたか? もしくは古びた神社があるとか聞いた事はありませんでしたか?」


 私は現地の人に聞いて回った。しかし、全く知らない話しか聞けなかった。所がその列に並んだ事があると言う人に出会したのだ。


「俺は並んで居たのに女子高生にテープを持ち逃げされて悔しい思いをした者だ」


「私も同じです。会えて良かったー。夢でも幻でも無かったんですね! 私と同じ思いをしている人がいるだけで私は嬉しいです」


「何処に消えてしまった物だろうか? 諦められませんでしたよ」


 その道が無くなったことを残念がる人に会えて嬉しかった。名前は志田さんと言っただろうか。私はこの事を思い出として封印する事にした。それからは通常の生活に戻った。私はラベンダーと沢山遊んだ。


 あれから、二年程も立っただろうか?もうラベンダーもすっかりお婆ちゃんだ。あんなに元気に歩いて散歩していたのだ。けれど、もう歩く処か立つのもやっとな様な状態だ。ラベンダーにも自分の死期が分かるらしくその日はずっと私の顔を見ていた。私もその日はずっとラベンダーから離れなかった。その日ラベンダーは妻の所に旅立って行った。私は一人になってしまった。その日、私は固くなっていくラベンダーにずっと話し掛けていた。次の日、ラベンダーを妻の眠っているお墓に埋葬するとその足でラベンダーとドライブした道をドライブした。いつものなれた道だった。あの時に曲がった青の看板のある信号機に差し掛かったときの事だった。一匹の犬が私の前に突然現れた。ラベンダーだ。あれは間違いなくラベンダーだったんだ。最後に私に会いに来てくれたに違い無い。私は曲がる筈の所を曲がれず、先に進んだ。曲がれる所で曲がる事にした。すると、無くなってしまった筈の道が突然出現したのだ。あの行きたかった道がそこにはあった。私はその道を躊躇無く進んだ。いつも並んでいたその場所まで来ると、やはり、行列がそこには出来ていた。私は車を止めるとその行列の後ろに並んだ。並ぶとやや暫くしてあの女子高生がいたのだった。女子高生だが、しばらく会っていないせいか。それとも大人びた私服のせいか随分と魅力的になっていた。もう、高校生は卒業して居たのだろう。が、そんな事で屈服している場合では無い。最後のチャンスかもしれない。いやこれはラベンダーが私にくれた最初で最後のチャンスなのだ。何が何でも今日こそは取り上げて、必ず観てやる。何度も待ったんだ。妻以外の相手など今まで見向きもせずに生きて来た。もう良いだろう。妻だって許してくれる筈だ。少し位目をつぶってくれる筈だ。並んだ人全てが見て良い筈だ。必ず今日こそは奪い取ってやる。そうこうしているうちにあの子はこっちに向かってビデオテープを持って走って来たのだ。私はその子の手を掴んだ。その手にはビデオテープが握り締めてあった。


「持ち逃げするなよ。皆んな楽しみにしているんだぞ。何の権利があって、持ち逃げするんだよ。皆んなに謝れって言うか、返せ来るな!」


「ごめんなさい。許してください」


 元女子高生のこの子は今回は抵抗する事無く、あっさりとビデオテープを渡したのだった。やったぞ、今度こそは見れる。観たかった物がやっとで観れる。


「パチパチパチパチ」


 側にいた行列に並んでいる男達から、拍手が出た。きっと、私と同じで並んで持ち逃げされて見られず、悔しい思いをした者もいたのだろう。だが、今回は違う。今度こそは並んでいさえすれば、見る事が出来るのだ。皆んな見れる。私は嬉しくなった。こうして私が起こした行いで喜ぶ人がいる。皆んなと共有出来るのだ。これが嬉しく無くて何が嬉しいと言うのだ。私は早速元あった場所に返す事にした。元女子高生はそそくさと帰って行った。その山を登り、カセットテープをデッキの中へと入れると並んで居た人達が喜んで見に来た。本来なら、私が取り返したのだから、私から見るべきと言う思いがした物の、先を譲る事にした。譲るのは構わないが、第二の女子高生の様な真似をする者が現れてまた持ち逃げされるリスクはあるものの考えても仕方が無い。その時はその時だと思う様にする。それに私は待つ楽しさを皆んなと共有したいのだ。なので、私は先程並んでいた元の場所へと戻って並び直した。

 少しずつ人が減って行き、自分の番が近付いて来る。ワクワクする。この胸の高鳴りはいつ以来になるだろうか? 妻と出会った頃の様なワクワク感を覚える。待ちきれ無い気持ちで一杯だった。時折、『先に観なくて良いのですか?』と、言う誘いが来る度、誘惑に負けそうになる。正直言って、先に見せてくれと言う衝動に駆られたくなるのだ。しかし、ここはグッと我慢する。私はそうだが、この気持ちは皆んな同じなのだ。焦らされれば焦らされる程見た時の思いは格別的な物となるだろう。こうして私は心の誘惑に勝って、待ち続ける事が出来たのだ。今に至る。いよいよ最後の一人となった。この人が山の土手を降りて来れば、いよいよ私の番だ。喜びもあるが不安もある。元女子高生の様に持ち逃げしないだろうかとか。自分が見る番になった時、故障して肝心なシーンが観られませんでしたとか? 嫌な想像をしてしまうのだ。丁度あれだ。人気店のパン屋さんに並んだ時に自分の順番の時、『売れ切です』と、言われた時の残念過ぎるあの嫌な感じだ。まあ、考えまい。そんな風に思っていると、三十代位の男性が降りて来たのだ。目には薄らと涙を浮かべていた。泣く程良かったのだろうか? 期待値大だな。それ程の物だったのか。益々観たくなった。


「お待たせ致しました」


 その男性は私に深々と頭を下げると、私の元から離れて行った。いよいよ私の番だ。私はその山を土手を一歩一歩踏み締めて登って行った。後、もうちょい。登り切ると、底にはビデオデッキが置いてあった。やったー。これでやっと観れる。そこには四十代の私では無く。少年の心を持つ私がいた。完全に少年だ。顔や姿は中年のおっさんかも知れないが心は確実に少年になっていたのだ。

 私はビデオデッキの前まで行く。横には百円の文字。この中に百円玉を入れさえすれば見る事が出来る。ポケットには財布。百円玉が入っている。私はポケットから財布を取り出す。そして、財布から百円玉を取り出す。それをいよいよ投入。その瞬間。手が震える。手に力が入らないのか、手から百円玉を落としてしまう。転がる百円玉。それを私は追う。追うが直ぐには掴めない。勢いが有るせいで直ぐには倒れもしない。このまま転がって行くと最悪下に落ちる。焦る私。手を伸ばし、四つん這いになる。ひっくり返りそうになりながらも落ちる寸前で押さえ込む事が出来た。百円玉は私の手に戻って来た。取り敢えずはホッとした。落ちなくて良かった。このまま転がって落ちて仕舞えば馬鹿を見ることとなる。やっとで観れると言うのに観られずに終わらなくて本当に良かった。私は気を取り直してもう一度投入口まで足を運んだ。今度こそは投入出来るように両手で百円玉を掴み投入しようとする。手が震えている。それでも百円玉投入。電源がつく。後は再生を押すだけだ。押すだけなのに冷や汗の様な変な汗が出て来る。胸の鼓動は高鳴り、手や背中にも汗をかく。ドキドキが止まらない。こんな事は嫁に初めて会った時以来だ。息を整えてさあ観るぞ!


「再生ポチッ」


「ジージープシャ」


 ビデオから映像が流れた。観たかった映像がやっとで観ることが出来たのだ。私はそれを観て涙を流した。男泣きだ。良い年をして大泣きをしている。恥ずかしくて人には見せられない所だが、後から後から涙が出て来て止まらないのだった。


「うっ。ぐっ。あうっ。グシャ。あっ。こっ。こんなの。うっ。決まっ。決まって、いっ。いるだろう。ずるっ。いって」


 映像には若い女性と可愛い犬が映されていたのだった。



          完結

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

謎の映像と女子高生の逃走。 木天蓼愛希 @amniimnyann

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ