この親切な世界では当レビューは0点になるだろう。


 おれの目の前には、文章を要約する四択問題がある。

 質問者に急かされつつ「以前」なら妥当だった答えを口にするも、それはどうやら意図したものではないようだ。

 いつからこうなった。今の世界は親切で、致命的にずれている。




 昔、国語のテスト問題で「線①における○○の気持ちをXX字以内で答えよ」という問題があった。
 学生の頃の私はそれが嫌いだった。それなりに正解はしていたから苦手ではなかったが、答えがキッチリ一つに定まらずにモヤモヤするのだ。

 この物語はコンテクスト(文脈・背景)をテーマにしているように感じられた。

 言葉(文中)に書かれていない割合が高ければハイコンテクストであり、
 文章中に大半の意図や情報が具体的に盛り込まれていれば、ローコンテクストになる。
 両者の何が違うかというと、受け取り方の幅が違う。文中に書かれていない文章が多いほど、その空白をめぐり、多様な受け取り方が可能になる。
 ローコンテクストとはすなわち親切なのだ。例えとしては「説明書」だ。誰もが同じ受け取り方が出来るし、誤解が入る余地はない。そうでないと困る。

 この作品で描かれている世界は、国語(文章)の領域で、一律してローコンテクストに捉えることを強制しているのだろう。
 詩や俳句といった内容も、単純な文章の羅列としか読まないし、読者は推測したり、背景などを追ってはいけないし、作者も委ねてはならないのだ。
 伝えたければその内容をちゃんと明記しなくてはいけない。

 ローコンテクストの良し悪しの問題を語っているわけではない。
 ちゃんと言葉で伝えてくれた方が嬉しいという人もいれば、言葉でない領域で伝わることに魅力を感じる人もいる。
 作中世界に「猛烈なクレーム」がたくさん入って、住人が人間の本質と対策を知り、誤解やいちゃもんの付けようがないように「親切」に振る舞うことを胸に誓ったのかもしれない。

 これは個人の感性の問題なのであり、男はひどく悲しくなったのである。


 親切な世界から見れば、当レビューは0点になるだろう。
 上記のような内容は、この作品の本文には一切明記されておらず、レビュアーの私的意見、推測が多分に含まれているからだ。

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