第123話 パーティー開始!

 マリーアが男たちから言い寄られ始めた頃。フランツとカタリーナ、そしてハイディは、パーティー会場となっている大ホールの入り口前に移動していた。


「この先は大ホールの中で、一段高くなっている壇上に出るよ。壇上で私がパーティーの開始を宣言するから、その後は私たちも下に降りるって感じかな」


 ハイディが最終確認として説明をして、フランツとカタリーナはしっかりと頷く。


「分かった。では行こう」

「パーティーを楽しみましょう」


 二人の言葉にハイディが笑顔で頷き、フランツの右腕をハイディが、左腕をカタリーナが取った。両手に花状態のフランツは、普通ならば下品にもなりそうなところだが、とても品のある美しさを保っている。


 三人の容姿が整っていることも原因の一つだが、やはり高位貴族としての立ち居振る舞いが、三人を品よく見せるのだろう。


 傍に控えていた使用人にフランツが合図をして、扉がゆっくりと開かれた。目の前には大勢の者たちが集まるパーティー会場が現れ、三人は大ホールに足を踏み入れる。


「ハイディ様がお越しだ!」

「お久しぶりです!」


 いち早く三人の登場に気付いた者たちが声を上げながら拍手をし、拍手の波はすぐ会場全体に広がった。


 しかしフランツとカタリーナの存在を疑問に思ったのか、拍手は少しずつ弱まり、代わりに困惑の雰囲気が漂い始める。


「ハイディ様と……誰だ?」

「パートナー、だろうか。しかしそれなら、もう一人の女性は誰なんだ?」

「というか、ハイディ様はルプタント商会の倅と婚約するんじゃなかったか?」


 様々な疑問が飛び交う中、三人は壇上の前方に向かい、ハイディが一歩前に出て口を開いた。


「皆、今日は来てくれてありがとう。ハイディ・トレンメルです。魔道具について有意義な意見交換ができる場として、パーティーを活用してくれたら嬉しいな。身分や立場はあまり気にせず、自由に活発な議論を楽しんで!」


 そこで言葉を切ったハイディは、フランツとカタリーナを片手で示す。


「皆も気になってると思うけど、この二人は私の友達で、ちょうど遊びに来てたからパーティーにも参加してもらったよ。二人とも貴族だけど堅苦しいのは必要ないと思うから、あんまり緊張せずにね」


 この場では、わざわざ婚約者候補であるとは明かさない方針だ。その事実は、オイゲンに対してのみ明確にすれば婚約打診の問題は解決される。


「フランツ・バルシュミーデだ。この街の大切なパーティーに呼んでもらい、嬉しく思っている。魔道具については素人だが、皆と意見を交わせたら嬉しい」

「私はカタリーナ・エルツベルガーですわ。本日は皆様と楽しい時間を過ごせたら嬉しいです」


 二人が貴族として挨拶をすると、会場中がシンっと静まり返った。皆が唖然として、口を大きく開けたまま二人のことを凝視している。しかし一人の呟きによって、今度は蜂の巣を突いたような大騒ぎとなった。


「英雄、様……?」

「や、やっぱりそうだよな!?」

「なんで英雄様がこんなところに!」

「まさか会えるなんて!」


 やはり帝都から離れた場所でも、フランツ・バルシュミーデという名前は有名らしい。


「エルツベルガーって名前も聞いたことあるぞ」

「確か……侯爵家だったような」

「え、マジかよ」


 カタリーナもやはり侯爵家ということで、フランツほどではないにしろ、知名度はあるようだ。


 ざわざわと高揚感が高まっていく中、ハイディが元気よく宣言した。


「じゃあさっそく、パーティー開始だよ! 好きなように時間を過ごしてね!」


 ハイディの気軽な開始宣言を契機として、会場内は一気に騒がしくなる。その原因のほとんどは、やはりフランツの存在にあるようだ。


 三人が壇上から降りると、真っ先にトーレルの街で影響力のある者たちが近づいてきた。大きな商会の商会長や、多数の従業員を抱える巨大な工房の工房主など、この街を支えるやり手の者たちだ。


 それ以外の参加者たちは、三人に近づきたいとうずうずしながらも、順番を待っている。


 ルプタント商会の商会長、そしてその長男であるオイゲンは、思いもよらぬ人物の出現に衝撃を受けているのか、唖然として固まっている様子だ。


「ハイディ様、お久しぶりでございます。そしてフランツ様、カタリーナ様、お初にお目にかかります」


 最初に口を開いたのは、商会長である壮年の男だった。


「久しぶりだね〜」


 ハイディが笑顔でゆるっと返答をすると、あまり興味がなさそうなそんな態度にもめげず、男は懐から一枚の書類を取り出す。


「今回のパーティーでは、ぜひハイディ様にこちらの書類を見ていただきたいと思っておりました。実は他国の魔道具素材の輸入に関してなのですが……」

「他国の魔道具素材!?」


 さっきまでの興味がない態度はどこへ行ったのか。目を大きく見開いてキラキラと輝かせ、ハイディは商会長の男に前のめりで問いかけた。


「どんな素材なの? この辺では採れないやつ?」

「トレンメル公国での採取は難しく、シュトール帝国全体を見回しても、安定的な供給は難しい素材です」

「それは凄いね……!」


 一気に乗り気になったハイディは、男が広げた書類を覗き込んで真剣に議論を始める。そんなハイディに商会長の男は良い笑顔を浮かべていて、他の順番を待つ者たちもハイディの興味を引くために持参したそれぞれの土産を再度確認し始めた。


 そんな光景に、フランツは苦笑を浮かべてしまう。


(さすがハイディだ。魔道具への熱量だけは変わらず凄いな。しかしその反動か、他の出来事に関してあまりにも関心がないのはどうなのか……)


「この素材、すぐに輸入できるの?」

「もちろんでございます。さらに、すでにサンプルは手元にあるのです。使用人に預けさせていただきましたので、ぜひお試しください」

「本当!? さすがだね!」


 それからもしばらく二人の話は続き、ハイディとの話に区切りがついたところで、商会長の男は改めてフランツとカタリーナに頭を下げた。

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2024年12月27日 22:00 毎週 月曜日 20:15

帝国最強の天才騎士、冒険者に憧れる 蒼井美紗 @aoi_misa

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