最終話 ベリークイーン・赤いスカーフ、イチゴの女王

 唐島主任のドリームシティ店着任から、一年がたった。


 もうすぐ異動の季節がくる。戸塚さんは出張していた商品部から売り場に戻り、ついに稲城さんには、他店舗の青果主任の内示が出た。

 稲城さんが異動したあとには、たぶん新入社員が配属されるだろうという噂だ。なんとなんと、春にはわたしが先輩社員になるのだ。


「瓜生、スカーフとバッジ、届いてるぞ」


 遅番で出勤するやいなや、売り場で待っていた唐島主任から紙袋を渡された。中には、真新しい赤スカーフときらきら輝くバッジが入っている。


 年が明けてすぐ、わたしは野菜ソムリエの試験に再チャレンジした。結果は無事合格。そして今日、ソムリエの赤スカーフと認定バッジが届いたのである。


「お七ちゃん、はやく着けてみなさいよ」と、パートさんたちがわたしをせかす。彼女たちにとっては、娘の晴れ姿を見るような気分なのだろう。


 照れくささを感じながらスカーフをたたみ、首に巻き付ける。巻き付けて……? 巻き……? 巻き付けてみたけど……?


「えーっと、主任。このスカーフ、どうやって結ぶんですか?」


 肩透かしをくらったパートさんたちは、昭和のコントみたいにずっこけた。

 唐島主任が苦笑しながら、手を差し出す。


「しょうがないな。ほら、貸してみろ。結んでやるから」


 わたしから受け取った赤いスカーフを、主任がていねいにたたみ直して首に巻いてくれる。手際よくネクタイ結びにしてから、主任は満足そうにわたしの姿を眺めた。


「うん。よく似合ってる。合格おめでとう、瓜生」


 おめでとう、とパートさんたちも拍手してくれる。


「よし。野菜ソムリエ・瓜生。さっそく売り場を一周回ってこい」

「はい! 行ってきます!」


 高級イチゴ・ベリークイーンと同じ色のスカーフを着けたわたしは、スイングドアを押して売り場に踏み出した。


「いらっしゃいませ」


 お客さまに笑顔であいさつをしつつ、胸を張って売り場を歩く。

 売り場には春の山菜や菜花なばなが並び、照明を受けたイチゴたちが、赤くつややかに輝いていた。


〈おわり〉

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ベジタブル&フルーツ ソレイユマート青果部門 たつた あお @tatsuta_ao

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