エピローグ 底辺ぼっちのその後

 6月30日金曜日――。


 あの激動の中間テストから約一か月が経った。


 あれから時杉ときすぎを取り巻く環境も少し変わった。


 まず、学校でよく話しかけられるようになった。


「おはよう、なし男くん!」「おっす、なし男」「なし男さん、チョコ食べます?」


 みな少し前からは想像もつかないほどフレンドリーに接してくれる。

 気づけばあだ名もただの《スキルなし男》から《学校を救ったスキルなし男》に昇格していた。


「いや、結局なし男のままなのかよ……!!」

「うわっ!? どうしたのトッキー……?」

「ああ、すいません。ちょっと学校でのことを思い出して」

「学校かあ。でもよかったね。中退とかにならなくて」


 時杉がやって来たのは霞が関にある迷宮省のビル。

 無論、特殊攻略職員となったからだ。


 ただ、正式な辞令の交付は7月の一日いっぴからということで、今日は諸々の手続きに来ただけ。

 デルタは先輩としてその付き添い。


 ちなみに無事にスカウトのための評価期間も終わったことで、毎日の夜の練習も終わり。

 デルタ自身の本来の任務もあったことから、二人が会うのは実力テストが終わって以来初めてだった。


「というか、普通に学校に通っていいんですね。てっきり中退にでもなるのかと思ってたんですけど」

「まあトッキーの場合は、まだ正確に言うと協力員って扱いだからね。さすがに折角の青春を奪ったりしないよ。あ、もちろん身分については明かしちゃダメだよ。秘密だからね」

「わかってますよ」


 念を押すデルタに、時杉が頷く。


 ただし何かあった際は学校を休む場合もあるので、そのときは「家の事情」というフワフワした理由を採用するらしい。

 そのため、和歌森わかもり先生と校長先生含む学校の数名だけは時杉の事情を知っているのだとか。


「でも、さすがにスキルのことは明かしてよかったんじゃ……」


 先ほどのあだ名の件を改めて思い出す。

 けれどデルタは首を振った。


「ダメダメ。言ったでしょ、トッキーのスキルは役に立つって。もし誰かに知られたらあっという間に広まるし、それこそどっかの国の機関とかがトッキーをスカウトに来るよ。それか誘拐とか……!」


 デルタが「ひゃあ」と怯えるように己の肩を抱く。

 時杉としてはいささかオーバーリアクションに映ったが、実はそうでないらしい。


 何度でも攻略をやり直せるという、【一時保存セーブ】スキル。


 その能力は一度でも失敗したら終わりの《未攻略ダンジョン》のこと、様々な場面で力を発揮する。

 ダンジョンが中心に回る世界において、攻略をいかに優位に進められるかはなにより重要事項。優秀なスキルを持つ人間は常に引っ張りだこだ。


 だからこそ、【一時保存このスキル】の存在を秘匿ひとくして、自分たちだけの物にしておきたいと言うのが迷宮省内部の決定らしい。


 なお、デルタがしきりにスキルを秘密にしろと言ったのもこれが理由。

 説明がややこしいだのは建前で、こっちが本音だったとか。


(まあ理屈はわかったけども……おかげで俺のあだ名はかわらないままなんですが)


 なんてことを時杉が考えていると、デルタがふと思い出したように「あ」と呟いた。


「そういえば、ずっと気になってたことがあるんだけど」

「なんです?」

「ほら、最後の狙撃。よくあんな小さい的にピンポイントで当てられたなぁって。眼球でしょ、眼球。しかも一発で!」


 当時を思い出しながら、デルタが興奮気味に語る。


 時杉の場所から切り落とされた竜の頭部までは50メートルは離れていた。

 いっしょに練習していて時杉の射撃技術を知っているデルタからすれば、まさしく奇跡に思えた。


 だが……。


「ああいや、アレはその……」

「? トッキー?」


 喜んでいるところ水を差すようで申し訳ない。

 そんな表情の時杉に、デルタが不思議そうに首を傾げる。


「まあなんというかですね…………あれ、実は当ててないんですよ」

「え!? どゆこと!?」


 まさかの告白にデルタが驚愕する。


 事実、時杉の放った弾丸は見事に竜の眼球を一発で貫いた。

 だからこそデルタは無事だったのだ。


 なのに、当てていないとはどういうことか?

 もし仮にあのとき外していたのだとして、そこからもう一発撃ち直すような余裕も――。


 と、そこでデルタは気づいた。


「! まさかトッキー……!」

「いやぁ、その……はい。たぶん想像通りです」


 ――そう。


 実はあのとき、時杉は密かに射撃の前に呟いていたのだ。


「……【セーブ】」


 ――と。


 その上で盛大に的を外した時杉は、即座に呟いた。


「あ、やべ。【ロード】」


 そうして射撃前に戻り、また撃ち直す。

 これを当たるまでひたすら繰り返す。


 これこそが、時杉が【一時保存セーブ】と狙撃銃を組み合わせて生み出した、まさに“必中”のカラクリだった。


 と、話を聞いたデルタが恐る恐る尋ねる。


「……ちなみに聞くけど、何回ループしたの?」

「そうですね。たしかちょうど100回くらいでした」

「100!? そんなに!?」


 デルタが目を丸くして叫ぶ。


「まあ、俺なんかの銃の経験キャリアであんな離れた小っちゃいマト当てられませんて。むしろ100回で済んで良かったレベルですよ」

「う~ん……言われてみればたしかにそうかも」


(……と言っても、あんな「絶対外さん!」みたいな覚悟を期しておいて盛大に外したのは自分でもちょっと恥ずかしいけど……。というか自分で言うのもなんだけど詐欺感が半端ない……)


 ――……外せない! この一発だけは……絶対に!!


 思い出すと赤面ものである。


「いやぁ……最初は一発じゃないかい!ってツッコもうかと思ったけど、なんかいざ聞いたらこれはこれで感動したよ」


 百発百中ならぬ百発一中。

 だったら百回やり直せばいいじゃない。


 こんなふざけた戦法、【一時保存セーブ】スキルを持つ時杉にしかできない。


 デルタが感心したんだか呆れたんだかよく分からないため息を吐く。

 だが、すぐにその表情は笑顔に変わった。


「でもま、ちょっと安心したかも」

「安心?」

「うん。なんと言うか、トッキーならこの先もなんだかんだうまくやっていけそうだな、って思ってさ」

「なんですそれ?」


 言いながら、時杉も笑顔になる。

 意味は解らなかったが、とりあえずは期待してくれてると解釈することにした。


「というわけで改めて、これからよろしくねトッキー!」

「はい!」



 未来は明るい。

 二人は並んで走り出した。



 ―完―



//////////////////////

※すいません、冷静に考えたらエピローグ書くなら挨拶こっちに書いた方がいいかと思い、45話から移しました!


 え~、というわけで第1部完です!


 いろいろと拙い部分ばかりですごく申し訳なかったんですが、ここまで読んでいただき本当にありがとうございます!!🙇‍♂️🙇‍♂️🙇‍♂️


 なお、第1部と言っていますが、ぶっちゃけ2部があるかは未定です。(構想はあるんですが、ストックなし!)

 書くにしても、少なくとも第1部の気になる点を書き直したいな~と思うのでそっち優先かと(大筋は変えないつもりですが、もっとわかりやすくしたり、おかしいなと思う部分を直したり、あとは正直もう少しスリム化したいです、、、最初は10万字30話くらいと思っていたのに・・・)


 ちなみに(もし書くとして)今後の展開ですが、


・迷宮省の職員として民間やら海外とのいざこざに巻き込まれながらセーブスキルで何とかする and 学校では学校でなんだかんだ「スキルなし男」として微妙に舐められたままセーブスキルで無双する

・デルタが時杉の学校に転校してきて、なんであんなかわいい子と「スキルなし男」がいるのみたいな感じになる

・セーブスキルの進化系

・結局デルタさんて何者?そもそもこの世界なんでダンジョンあんの?みたいな秘密に触れる


 などを書きたいなと思いつつ……思いつつ……思いつつ……。


 まあそれはさておき、繰り返しになりますが、いろんな作品がある中で僕の作品を読んでいただき本当に本当に感謝しております!!!


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ループ・ザ・ダンジョン🌀一度の失敗が人生終了のダンジョンで、ただ一人セーブできるようになった底辺ぼっちの成り上がり やまたふ @vtivoo

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