鍋を囲んで~ほっこり温かな家族の寄せ鍋~

夢月みつき

第1話「ほっこりお鍋で」

師走の12月30日。北風吹きすさぶ冬。

高2の後藤ごとう亜由美あゆみは、母の静子と近所のスーパー、ファンファン・マーケットに買い物に来ていた。今日の夕食は、静子しずこが鍋料理を作ってくれるらしい。

年末だけあってスーパー内は、買い物客でごった返していて。

オリジナルの楽しい曲が流れている。



「ねえ、ママ。今日はなに鍋にするの~?」

亜由美はにこにこ顔で、ショッピングカートを押す静子に聞いた。

「そうねえ? 今日は、お豆腐と鶏肉が20ポイントも付くから。寄せ鍋にしましょう。」

静子は長ネギを買い物かごに入れながら、微笑み答えた。

「楽しみ~」

亜由美は、静子の指示通りに、鍋の素、シメジなど鍋で使う他の物も色々と入れる。



静子がレジに並ぼうとすると、亜由美が。

「ポテチとカフェオレも買うよ~」とかごの中にぽいぽいと入れた。

静子はそれを見てクスッと笑い、


「買い過ぎないようにね」と一言言うと。

「はーい」と亜由美はちょっと残念そうに答えた。



買い物の帰り道。夕方になり、空は綺麗なオレンジ色の夕焼け空になっていた。

冷たい風が2人に吹き付ける。


「うーっ! 寒いねー」と亜由美が顔をしかめて言うと静子は、

「そうねっ…パパも帰ってくるし、早く帰りましょ。帰ったら温かくするのよ。亜由美、来年までお医者さんお休みだからね。」と娘を心配して言った。



亜由美と静子が家に帰ると、オスのトラ猫。直虎が奥の部屋から駆けて来た。

「にゃあんっ」直虎は静子に飛びつく。

「あらあら、直虎。そんなに嬉しそうにして! んもう~。可愛いんだから。」


静子がメロメロな表情で、直虎ののどを撫でると。直虎は、ゴロゴロとのどを鳴らした。

それを見た亜由美は、焼きもちを焼いて。


「もうっ!直虎ったら。ママには、甘えるんだから!私にも甘えてよおー」

と直虎の頬を突こうとすると、シャー!と牙をむきまるで、悪魔のような顔で威嚇いかくされた。




亜由美も手伝って静子が、寄せ鍋の準備をする。

直虎は、一足先にエアコンで暖められた和室でカリカリした、

キャットフードを美味しそうに食べ始めていた。


鍋が出来上がり、亜由美がお笑い番組を観ていた時。


ピンポーンとインターホンの音が鳴った。

静子が部屋の壁に取り付けてある。受話器付きのテレビ電話の画面を見ると、夫のただしが映っていた。

静子は鍵を開けるとドアを開け、正を迎え入れた。



「ただいま、静子。う~っ。外は、寒かったなあ!」と震えると静子は

「お帰りなさい!正さん。寄せ鍋の準備は出来てるから。先にお風呂にする?」

と聞くと正は、カバンを渡しながら。「飯を先にするよ。寄せ鍋楽しみだ。」と微笑み、静子と和室に入った。「パパ、お帰り~!」テレビを観ていた亜由美が振り返り声を掛ける。



「ただいま、亜由美。今日はどうだった?」と聞くと

「ん~っ?今日は、ママと買い物行ってた。」と言った。

すると、静子が「亜由美が袋を全部持ってくれたのよ。」と言った。



「そうか、ママの手伝い偉いぞ。」と正が言うと亜由美はへへっと嬉しそうに笑った。


ガスコンロを出して、お膳に置く。静子が寄せ鍋の材料を煮始めると、

正が、トレーナーの上下とセーター、はんてんを着て来た。

「早く煮えないかな~?」亜由美が鍋を眺めながら。暖かい緑茶を飲んでいると、

直虎が亜由美の足にすり寄って来た。



「おっ? なおちゃん。めずらしく私に甘えて来て!」

亜由美はとても嬉しそうに直虎を抱き上げ、頬ずりをする。直虎も目を細めて嬉しそうだ。



亜由美が直虎と遊んでいると静子が「煮えたわよ~」と、土鍋のふたを取った。

白い幸せなゆげがほこほことたっている。


鍋の中には、美味しそうに煮えている。鶏肉のつくね団子、シメジにんじん、白菜ネギ、豆腐達が共演をしていた。

「うまそうだな!ポン酢と卵取ってくるよ。」

正は、冷蔵庫から卵3つとポン酢を取って来た。



亜由美と静子、正は寄せ鍋を食べ終えてシメは、卵を入れたおじやにした。

「はふはふっ…うま~い! このおじやがサイコーなのよね。」

亜由美は、自分の器からおじやをすくってほおばる。


「熱っ! ヤケドしたあ~」

正は待ちきれずにあまり、冷まさず食べたので口の中を火傷やけどしてしまった。

静子が心配して台所から水を持ってくる。

「も~っ! パパったら、慌てるから」と水が入ったコップを手渡すと。

「ありがと」と正はコップを受け取り一口飲むと、口に含んだ。



外は寒いけど。家の中はこんなに温かい。明日は大みそか。

年越しそばを食べて、除夜の鐘を聴きながら神社に初もうでに行く。

来年も良い年になりますように。亜由美はそう、願った。




(終わり)


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最後までお読み頂いてありがとうございます。

この小説は、私が去年の年末に、別サイトさんではじめて、5題小説マラソンに挑戦した時の作品です。

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