午後〇時の魔法
汐なぎ(うしおなぎ)
全一話
いきなり扉の開く音がして、
「先生お願いです! この子を……この子を助けてください!」
私は呼ばれて、声のする方を見る。そこには、血に染った赤子を抱く母親がいた。赤子が重傷だという事は遠目にも分かる。
「先生! この子を!」
私は
「もう亡くなっています」
私は静かに首を横に振ると、赤子の
私の心に彼女の泣き声が突き刺さる。しかし、彼女にかまっている
もう一年も前からこの内戦は続いている。革命軍が独裁政治に反対して
最近では
「爆撃で街の防壁が壊れて」
そう言って、泣きそうな顔の少年兵がやって来た。彼は肩に、同い年ぐらいの少年を
「すぐに診よう」
私は、少年を預かると床に寝かせた。
「大丈夫ですか?」
必死な顔で少年兵は
「息はある。止血をすれば大丈夫だ」
私は少年兵を落ち着かせるように笑顔を向け、手近なもので応急処置をする。これで、しばらくは大丈夫だろう。
彼は、
「ありがとうございます。ありがとうございます」
少年は彼の友達なのだろう。涙を腕で
私は彼に笑顔を向ける。少年が助かってよかったと心から思う。もう、人が死ぬのは見たくない。
「それより、爆撃されたって、どう言う状況なんだ?」
私が尋ねると、彼は緊張した
「たくさんの人が死んだり、怪我をしてうめいていたり……」
彼の説明を聞いただけで分かる。そこは、さながら
せめて、勝てるのなら、それでも救われる。しかし、戦況は
こんな事を言えば、酷い目にあう事は分かっている。私は、無駄な
「助けてください」
「痛い! 痛い!」
「死にたくないよぉ」
「私は医者だ。私が来たから大丈夫だ」
私は、気休めを言って、そばにいる数人の肩を叩いた。
街が爆撃されたのだ。
怪我人は兵士だけではない。
赤子も、子供も、老人も。
そして、当然、若い人々も。
これだけの人数を診るのは、私一人で足りるはずがない。しかし、医師も看護師も不足している今、救援は望めない。
私は、助かりそうな人を見つけては処置を
こんな
しかし、私が、声を上げたところでどうにもならないのは分かり切っている。だから、声を上げないのだと自分に言い聞かす。
それに、私がいなければ、怪我で死ぬ人がもっと増えるのだと……。
戦争反対を叫ぶ若者が革命軍に捕まったと聞いた。彼女は処刑されたのだと言う。もはや、革命軍の
そして、街が爆撃された日。
彼女が処刑された日の午後〇時。
戦争は終わった。
敗戦だった。
それは、
私はただ願わずにはいられない。もう、これ以上、武力による争いが起こらないようにと。
午後〇時の魔法 汐なぎ(うしおなぎ) @ushionagi
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