あえて作中に出なかった言葉を用いて評します。

「素直」という言葉は、よく間違われますが、自分に正直という意味で思う通りに動くのではなく、世の中の道理に従うという意味が強いです。ですから「素直になれよ」という言い回しは、自分の思う通りに動けというより、世の道理を学んで身の振りを直せという意味になります。

主人公は素直にあろうとしました。その結果、魔法は何だったのか知ります。

この小説を読み、世の道理を知る痛みを共有しませんか。

無償の愛を受けられなかったものは、無償の愛を信じられるのか。
安全を知らないものは、安全を信じられるのか。

平和を知らないものは、どんな状態が平和なのか、理解しているのだろうか？

戦争に関わらない私たちですら、本当の平和を知っているのだろうか…。

「振り上げてしまった拳は必ずどこかに下ろさなければならない。それが誰かの犠牲を伴うとしても‥‥」

昔、そんな言葉を言われたことを思い出した小説です。一つの判断は、たとえ正解であっても、過ちであっても必ず何かの犠牲を伴います。これが個人レベルであれば、自己責任に回帰するのですが、それが国であった場合どうなるか？　という感じのお話です。

なんの決定権のない人間は、与えられたものを甘受しなければいけない人間は、必ずこの手の話の最初の犠牲者になります。しかし、その決定を下すものは最後まで生き残る皮肉もあったりします。

そんなこの世のむなしさを教えてくれる短編です。今回、汐さんはたくさんの短編をカクヨムコン９に出していますが、この作品が一番頭抜けています。すばらしい短編だと思います。

黙っていても平和は手に入らないとはいえ、戦い続けるのは空しい……。

なんてことを言っていられるのは日本が平和だからなのであって、いつ他人事じゃなくなるかもわからない。
じゃぁ、僕に何ができるだろう……。

【平和的に接しよう！】

なんて声高に叫んだところで、相手が応じてくれる保障なんてどこにもない。
結局僕は『何事もありませんように』と祈るしかないのか……。