番外編 付き合いたての二人と光るメガネ

とある日の出来事



「で!? 今日からお前たち付き合い始めたんだって」

「はい! 誠兄ちゃん! これから宜しくお願いします!」

「お前に兄と呼ばれる筋合いはない!!!」

「えぇええええ!? 今までだってそう呼んでたじゃん!」

「今日からはさん付けで呼べ! このでこすけ野郎!」


 こ、このシスコンメガネめ!

 どうせそんな反応になると思っていたよ!


「ちょっとお兄ちゃん! 康太こうたにそういうこと言わないでよ! 私が嫌われちゃうじゃん!」

「ぐっ……」


 おっ、いいぞいいぞ!

 もっと言ってやれ美鈴みすず


「君に美鈴みすずが守れると思っているのかぁ?」

「い、一応、親父に剣道と柔道は習ってるし……。ってかせい兄ちゃんはそのこと知ってるじゃん」

「兄と呼ぶなぁあああ!」



ォォオオオオオン



 うるせぇ!

 

 思いっきりせい兄ちゃんの声が廊下で反響している。


「お前みたいな顔してるやつに大切な妹を付き合わせられるか!」

「つ、つつ突き合う!?」


 美鈴みすずがその言葉に顔を真っ赤にする!


「ま、まだ早いって……! け、けど康太こうたがしたいって言うなら」

「一体何を言ってるんだお前は……?」


 美鈴みすずがまた微妙にわけ分からないことを言い始めたぞ……。


「と、とにかくにお前みたいな顔のやつはダメだって言ってるんだよ!」


 何故か少し気まずそうな顔をしたせい兄ちゃんが再びそんなことを言ってきた。


「私がこの顔が良いって言ったんだけど!」


 美鈴みすずが、少し背伸びをして俺の顔を覗き込んできた。


「えへへへ。カッコいいよぉ」

「兄の前でいちゃつくなぁああああ!」


 せい兄ちゃんが俺と美鈴みすずを無理矢理引き離す!


「そんな何かに迷っているような男の顔じゃダメだ! 今日からお前は生徒会に入れ!」

「えぇええええ!?」

「今日からお前は雑用係だ!!」


 ただの小姑じゃねぇかこの生徒会長! 


 美鈴みすずといちゃつく暇もなく、今日からせい兄ちゃんによるスパルタ教育がスタートしてしまった。




※※※




生徒会室



康太こうた君、ちょっとそこのペン取ってくれない?」

「うん」

康太こうた君、二階の図書館に貼ってあるポスターもう終わりだから剥がしてきて」

「へい」

「それが終わったら体育館の使い方でバレー部とバスケ部が揉めているみたいだから、ちょっと聞き取りをしてきて」

「お、俺が行くの!?」

「つべこべ言うな!」


 なんでや! なんで俺がそこまでしないといけないのか!

 これじゃ、ただこき使われてるだけじゃないか!


 そんなに俺のことが気にくわないのかッ!?


「……!」

「何だよ。何か言いたそうな顔してるじゃないか」

せい兄ちゃんは、そんなに俺と美鈴みすずが付き合うの嫌なの?」

「今のお前と付き合わせるのは絶対に嫌だ」

「じゃあどうすればいいんだよ!」

「ずっと腑抜けた顔しおって」

「はぁ?」


 せい兄ちゃんが突然わけ分からないことを言ってきた。


「まだ迷ってるんだろ。自分に自信がないくせに美鈴みすずと簡単に付き合うなんて言うな」

「……っ」


 まるで心の底を見透かされたみたいだった。


「そ、そりゃ、俺はせい兄ちゃんみたいになんでもできるわけじゃないし不安だよ! 誰かと付き合うなんて初めてだし!」

「ふんっ」


 せい兄ちゃんのメガネの奥にある瞳が俺のことをぎろりと睨みつけてきた!


「体育館に言って聞き取りしてきたら、そのままグランド十週走ってこい」

「えぇええええ!? すっげー嫌なんだけど!」

「考えるより前に行動してみせろ! つべこべ言ってないで早く行け!」


 メガネに怒鳴られながら、生徒会室を追い出される!


 あの野郎……! ねちねちねちねちやってきやがって!

 もう許さん! 今に見てろってんだ!




※※※




「ふーん。お兄ちゃんがそんなことを」

「そうだ! そうだ! 美鈴みすずからも何か言ってくれ!」


 秘技“妹に陰口”!

 ざまぁみろメガネ! お前の大好きな妹の好感度を下げてやったぞ!


「頑張ってね?」

「くっ!」


 しかし こうか がなかった!


 知ってた。美鈴みすずはこういうヤツだ。


「お兄ちゃんって、あんまり無駄なことはしないと思うから」

「ほ、本当かぁ……?」


 確かにそういう人かもだけど、妹のことになると話が別のような気がするけどなぁ……。


「俺の何が気にくわないんだろ?」


 ……というか、俺は普通に落ち込んでいた。


 せい兄ちゃんなら、俺と美鈴みすずと付き合うと言ったら、なんだかんだ言っても必ず喜んでくれると思っていたからだ。


「逆じゃないかなぁ。康太こうたのことすごく気に入ってると思うけど」

「どこがじゃい! 毎日毎日ボロボロボコボコにされて!」

「はいはい。私が慰めてあげるから」


 そう言って、幼馴染の女の子に髪を撫でられる。

 ちょっと嬉しくなっている自分に腹が立ってくる。


「見返してやる……。あのメガネをいつかカチ割ってやる!」

「そうそう! その調子だよ!」


 美鈴みすずが楽しそうに笑っていた。


「ねぇねぇ、そんなことより」

「なんだよ」

「私たち、全然恋人らしいことできてないよね」

「……言われてみれば」


 幼馴染と付き合うなんて何が変わるってわけじゃないしなぁ。

 正直、何をしていいのかさっぱりだ。


「あの日、言ったこと覚えてる?」

「あの日?」

「わ、私が告白したときのことぉ……」


 自分で言っといて、美鈴みすずの声がどんどん小さくなっていってしまった。


「好きですってやつ?」

「もっと他にもあったでしょう!」

「世界で一番ってやつ?」

「うん!」


 美鈴みすずが両手の指を合わせて、俺に何か言いたげな顔をしていた。


「な、なんだよ」

康太こうたからは聞いてないなぁって……」


 い、いいいい今言うの!?

 美鈴みすずが何かを期待した目でこちらを見つめている!


「……」

「ねぇ」

「……」

「ねぇねぇ」

「お、俺も世界で一番お前のことがす、好き」


 我ながらダサい……。

 声が震えてはっきり言うことができなかった。


「えへへへ。嬉しいなぁ、ずっとそのままでいて欲しいけど、どうなるかは分からないよね」

「はぁ? なんだよそれ」

「だって子供ができたらお互い分からないでしょ?」

「え……?」



シュバババババ!



 美鈴みすずが続けて何かを言おうとしたとき、遠くから走ってくる人影が見えた。


「なに勝手にいちゃついてるんだーーー!」



ドォオオン!!



 せい兄ちゃんのドロップキックが俺の腹にヒットした!


「いってぇえええええ! 何してんだメガネぇええええ!」


 ――俺と彼女の兄貴との戦いはまだまだ続くのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

現代に転生したら前世の娘が同級生だった件。娘がぐいぐい来るが攻略しません、攻略もさせません。【改稿版】 丸焦ししゃも @sisyamoA

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ