最終話 ぐいぐい行かなきゃ

 それからしばらく俺の家でドタバタしていたら、いきなりオフクロから電話が鳴った。


康太こうた! ちょっと来なさい!』

「え?」

『自分の遺品くらい自分で整理しなさい!』


 めんどくさい……。

 自分の遺品を自分で整理するってなんだよ。俺にしか通じないフレーズじゃん。


「ねぇねぇ! あなたのパソコンに昔の私たちの写真がパソコン入ってたでしょう!」


 前世の妻が余計なことを言っている。


「……」


 その一言で、俺はことを思い出してしまった!


 前言撤回だッ!

 これは絶対に自分で整理しないといけないやつだ!


「そうなの!? お父さんのパソコン、パスワードが分からなくて使えなかったよ?」


 娘の言葉に、俺はどっと背中に汗をかいてしまった。


 このままでは前世の嫁と最愛の娘にとんでもないものが見られてしまう可能性がある!


 そのまま封印しておきたいが、今、オフクロの言葉を断る理由が見つからない。


 足が鉛のように重い……。

 二人の楽しそうな声を聞きながら、俺は前世の実家に行くことになってしまった。




※※※




 居間の机のど真ん中に、ドカンと俺の愛機パソコンが置かれる。


 久しいな……。

 お前とも、また会えて嬉しいよ。


 今は会いたくなかったけど。


「使えるなら使ったら?」


 オフクロのしわくちゃな顔が、笑顔で更にしわくちゃになる。


 究極のありがた迷惑だ!


 こ、こんにゃろう! この中にとんでもない劇薬が潜んでいるとも知らずに!


「そ、そんな埃だらけもの、そもそも電源がつかなかったりして……」

「あっ! 電源ついたよ!」


 琴乃ことのが普通に俺のノートパソコンに電源を入れてしまった。


 さすが日本の家電だ! 十年くらいじゃ普通に使える!


「あっ、パスワード画面になっちゃった」

「!!」


 だがここまでだ!

 このまま俺がパスワードを忘れたフリをすれば――。


「多分、123456781じゃないかしら」



カタカタカタカタ



 木幡こはたが割り込んで、その数字を入力する。

 あっさりロックが解除されてしまった。


「お、おおおおお前何で知ってるんだよ!!」

「だって、いつもその数字じゃない」


 な、なんてことしてくれたんだ!

 まずいぞ! このままでは本当にまずい!


 ハンマーは!? ハンマーはどこにある!?

 こうなったら実力行使をするしかッ!?


「すごーーい! あっ、これ私とお母さんだ!」


 パソコンのディスクトップが表示された。

 壁紙は、美鈴みすず琴乃ことのを抱っこしているところだ!


「あらあら、随分愛を感じる壁紙だわねぇ」


 琴乃ことの木幡こはたが嬉しそうにその画面を眺めている。


 頼む! ここで終わってくれ!

 このまま良い話で今日は終わろうじゃないか!


「ねぇねぇ唯人ゆいと君。このえぬてぃーあーるフォルダって何かな?」

「あ゛ぁああああああああ!!」


 琴乃ことのがパソコンをいじり始める!

 しばらくすると、琴乃ことのはあるフォルダを見つけてしまった。


 まずいまずいまずい!

 このままではお父さんしゅきしゅきから、お父さんなんて大っ嫌いになってしまう!


琴乃ことの、よく聞きなさい」


 木幡こはた琴乃ことのの肩の上に手を置く。


 さすが前世の嫁だ!

 どうやら俺のことを助けてくれるみたいだ!


「男の人ってみんな変態なのよ。それは多分あなたのお父さんもよ」


 全然助けてくれなかった。むしろ死体蹴りを始めた。

 お前ら、本人が目の前にいるんだぞ。


「知ってるよ? だってお父さんの漫画みんなエッチだもん」

「違うの、このパソコンからもっとエッチなのが出てくるかもしれないのよ」

「も、もっとエッチなの!?」


 やめろぉおおおおお!

 嫁と娘にその手の話をされるとか何の拷問だ!


「おやおや、それは私も気になるねぇ」


 嫁と娘どころか母親もここにいたわっ!

 今、お前は出てくるんじゃねぇ! 


唯人ゆいと君、どうしたの顔色良くないよ?」

「そ、それ以上はやめたほうがいいと思うなぁ」


 その言葉に木幡こはたが楽しそうに笑い出した!


「あははははは! そうだよね! お父さんは変態だもんね!」


 クソがぁあああ!

 こっちの気も知らずにめちゃくちゃ楽しんでやがる!


「私は別に大丈夫だよ! 唯人ゆいと君が変態でも!」


 琴乃ことのが純粋な眼差しを俺に向けてくる。

 だから俺が大丈夫じゃないんだよ!

 

「よーーし! じゃあこのえぬてぃーあーるフォルダから調査を始めようね!」


 前世の嫁が意気揚々とそのフォルダにカーソルを移動していく。

 なんでこいつは娘と一緒に俺の性癖を暴こうとしているんだ……?


「ダメだって! 絶対にダメ! 琴乃ことのにはまだ早い! 琴乃ことのに見せちゃダメなやつだって!」


 こうなったらなりふり構っていられない!

 無理矢理二人の間に割って入ってノートパソコンを閉じる!!


「ふぅ……」



カチッ



 マウスのクリック音が聞こえた。



『うふーん。あはーん』 



 どこかのファイルのボタンを押してしまったのか、パソコンから音声が漏れた。


「わわわわわ!」


 琴乃ことのの顔が耳まで真っ赤になっていく。自分でやっておいて木幡こはたも恥ずかしそうに目を伏せてしまった。


 ――この日、俺は家族の前で二度目の死を迎えた。


 前世の俺の名誉のために言っておこう。

 えぬてぃーあーるが好きなのは二次元限定であると。

 



※※※




「ねぇねぇ、あなた」

「あなたじゃないし。俺は湯井ゆい唯人ゆいとだし」


 この日、俺は琴乃ことのの同級生に徹することを決めた。


 グッバイ前世の俺。

 前世バレなんてなかった。


 そのエッチなフォルダはさすがに琴乃ことのに良くないということで、オフクロと木幡こはたの手で封印された。


 その後、琴乃ことのは楽しそうに俺のパソコンの写真フォルダを眺めていた。

 変な写真はないから大丈夫なはずだ。


「あはははは! 私、ギャラクシーメガファイトの服着てる!」


 琴乃ことのが、その写真にコメントをつけながら夢中になってパソコンの画面を見ている。



「むー、何かこの写真。お父さんとお母さんいちゃいちゃしているような気がする」


「お母さんの絵、下手くそだなぁ……」


「あっ! このときのこと覚えてる! お父さんが私におもちゃ買ってくれたときのやつだ!」



 木幡こはたはその様子を目を細めて見守っていた。


「ずっとこういう日が続くといいね」

「ああ」


 俺も木幡こはたと一緒に琴乃ことののことを見守る。


(うぅ……)


 最近、涙もろくてダメだなぁ……。

 さっきも別の意味で泣かされたけどさ。


「あ゛ーーーー!! この写真! お父さんとお母さんがチューしてる!」


「「えぇえ!?」」


 その言葉に反応して、木幡こはたと一緒にその写真を覗き込む!


 赤ちゃんの琴乃ことののほっぺに、俺たちが両脇からチューしているやつだった。


「えへへへ~」


 琴乃ことのが楽しそうにその写真を見ていた。


 あ、焦った……。


 まさか娘に見られたらアウトなやつがでてきたのかと思った。

 いや、そんな写真は撮ったことないけどさ。


「ほら、お茶でもお飲み」


 オフクロが笑いながら、俺たちにお茶を持ってきてくれた。


「三人とも仲が良くて本当にいいねぇ」


 オフクロが俺にそんなことを言ってくる。


「……オフクロのせいでとんでもない目にあったけどな」


 つい悪態をついてしまったが、母親にそう言われるのが嬉しくて俺は表情が崩れるのを我慢できなかった。


康太こうた

「なんだよ」

「今度はちゃんと計画的にやりなよ……」

「ぶっ殺すぞ!」

琴乃ことのの子供の顔を見るまで死ねなくなったねぇ」

「……どうせオフクロは長生きするから安心しろよ」


 “長生き”の部分だけは願望と本音を込めて、オフクロにそう言った。


 これからは琴乃ことのを育てたくれた人たちにも恩返しをしないとな。


 ――みんなを幸せにできるように、これからは湯井ゆいと唯人ゆいととして精一杯に生きよう。


 さっき、前世の俺はまた死んだしな!


 

 








現代に転生したら前世の娘が同級生だった件。娘がぐいぐい来るが攻略しません、攻略もさせません。(改稿版)


~FIN~ 










【エピローグ】



◆ 古藤ことう琴乃ことの ◆



 世の中には、自分で思っているよりもずっと不思議なことがある。


 転生、生まれ変わり、前世の記憶を持って生まれてくる……。


 昔の私はそんなことを聞いても半信半疑だったが、いざ自分の回りでそれが起きれば、否応いやおうなしにそれが事実であると分からされてしまう。


 自分でも、不思議な体験をしたと思っている。


 まさか死んだはずの父と母が、私に会いに来てくれるなんて。


 ……最初は半信半疑だったが、私の魂はそれを否定することはしなかった。


 だって、ずっと死んだ両親のことを考えていた私がだよ?


(いつまでもめそめそ泣いてたから、二人とも心配で来てくれたのかな?)


 私は勝手にそう思うことにした。


 ――朝、今日も私は元気よく布団から飛び出した。


「よしっ! 今日も唯人ゆいと君の家に行こう!」


 心春こはるちゃんは後からくるよね?

 来ないなら電話すればいいだけだし。


 二人が私のことを思ってくれるように、私も頑張らないと。

 二人が私を愛してくれたように、今度は私が二人を幸せにできるようにしないと。


「よーし! 頑張るぞぉ!」


 これからは色んな意味でもっとぐいぐい行かなきゃ!

 お母さんには絶対に負けないんだからねっ!


 

 













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あとがき 



 この度は、改稿版「現代に転生したら前世の娘が同級生だった件。娘がぐいぐい来るが攻略しません、攻略もさせません。」をここまでご覧いただき本当にありがとございます。


 ここまでお付き合いいただいた皆様に本当に感謝しかありません。


 親子のドタバタすれ違いラブコメディはいかがだったでしょうか。


 少しでもお楽しみいただけたなら幸いです。


 改稿版を執筆したエピソードについては、近況ノートのほうにあげたいと思います。


 ここまでお読みいただいた方、また改稿前も改稿版もお読みいただいた方、この作品をご覧いただいた皆様には本当に感謝しかありません。


 皆様のおかげでとても楽しく執筆することができました!


 本当の本当にありがとうございます。


 またどこかでお会いできると嬉しいです!



作者:丸焦ししゃも

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